第一章 その③「海老天丼」
立夏が帰ってから成行たちは夕食の準備に取りかかる。
ダイニングルームへ集まり、先程購入した特上海老天丼とインスタントのお吸い物を用意する。しかし、時間的に遅くなったので、見事は天丼を半分だけ。成行と雷鳴は、そのまま一人前食べる。
天丼、お椀に入ったお吸い物、お茶の用意ができた所で夕食となる。
「雷鳴さんや見事さんは、あの子を知っているんですか?」
食事をしながら、成行はそれを尋ねた。先程の様子から二人は立夏と面識があるように思えた。
「私は面識があるって程じゃないよ。もっと子供の頃に一回か、二回会ったことがあるだけかな?むしろ、ママの方が面識あるんじゃない?」
見事は思い出しながらお吸い物を啜る。
「まあな、私の方が面識はある。あの小娘は執行部員だからな。その絡みと、赤鬼家との絡みでな」
雷鳴の回答は何かしらの事情がありそうなものだった。そこが気になる成行。
「赤鬼家ってどんな魔法使いなんですか?」という成行の問いかけに、少し面倒臭そうな表情をする雷鳴。
「うーん。話すと凄く長くなるから簡単に話す。赤鬼家は執行部を取り仕切っている家だ」
「執行部を取り仕切っている?じゃあ、執行部の幹部クラスですか?」
「いや、最高指揮官というべきかな?立夏の父親・赤鬼武実が執行部の
「じゃあ、凄腕魔法使い?」
「そう言っても過言じゃない。赤鬼家は戦闘系魔法では国内トップ5に入るからな。単純な戦闘では、見事よりも強いかもしれんぞ」
見事よりも強い魔法使い。そうなると、見事の一言も決して軽口などではなく、現実的な強さに基づいたものなのだろう。
「あっ、でも補足。執行部は東日本と西日本で管轄が分かれているの。赤鬼家は東日本執行部のトップってことね」
見事はそう言って海老天を頬張る。
「んっ!美味しい!」
笑みがこぼれる見事。
「執行部って西日本と東日本で管轄が違うの?」
同じく海老天を頬張る成行。
「美味っ!この海老天!」
衣にタレがしみ込んだ大ぶりの海老天。ぷりぷりの身が口の中で弾ける。
「その通りだ、ユッキー。魔法使い協会は愛知、岐阜、富山以西が『西日本魔法使い協会管轄』。静岡、長野、新潟以東は『東日本魔法使い協会管轄』だ。執行部も東西魔法使い協会と同じ範囲で管轄が分かれる。ただし例外的に、全国対応なのが御庭番だ」
そう言って海老天を頬張る雷鳴。
「美味っ!この海老天!」
海老天の美味さは雷鳴も満足させる。彼女は瞬く間に海老天を平らげる。
「そうすると、昨日の一件や、誘拐されたことも話さないといけないのか・・・」
天丼のご飯を口にする成行。タレのしみ込んだご飯がまた美味いこと。もう一口、ご飯を口に運ぶ。
「そうね。面倒かもしれないけど、今回のことはしっかり説明しないと。変に誤魔化そうとすると、話がややこしくなるかも」
見事は天丼を半分食べた所で箸を置く。
「あとは、明日にしようっと」
丼ぶり型容器には、海老天が一尾とタレのしみ込んだご飯がちょうど半分残っている。それをラップで覆う見事。お吸い物だけは飲み干してしまう。
「さあ、お風呂の準備をしなきゃ。明日は早いし、今夜はさっさと寝ないと」
見事は残りの天丼を冷蔵庫に入れると、雷鳴に尋ねる。
「ママ、明日はどうやって行く?車?電車?」
「ランクルで行こう。あそこは駐車場があったはずだからな。私から連絡しておく」
「了解。じゃあ、お風呂の準備をするね」
見事はそう言い残してダイニングルームを後にする。
「ユッキー、明日は宜しく頼む。また、説明してもらわないといけないが」
「いえ、お気になさらずに。僕は大丈夫ですので」
成行は残りの天丼をじっくり味わった。
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