第一章 その①「赤鬼さん、いらっしゃい」

 雷鳴を背負った成行と見事は、静所家へ戻る。夕飯に購入した特上海老天丼は一旦ダイニングテーブルに置いて、来客対応する成行と見事。

 相変わらずスヤスヤ眠る雷鳴。これでは起きそうもないので、成行と見事は寝室のベッドへ運ぶことにした。

 その上で立夏をリビングへ案内し、コーヒーとお茶請け用の菓子を用意する二人。その間、立夏にはリビングのソファーにて待ってもらう。

 「お構いなく」と、マイペースな立夏だが、彼女が持っている大きな黒いバッグが気になる。そのことをヒソヒソと話した成行と見事。


 コーヒーとお菓子の準備ができて、成行と見事もリビングへとやってくる。

 立夏と対面する形で、ソファーに並んで座った二人。

 「仲がよろしんですね?」

 立夏に言われてしどろもどろする成行と見事。そんな二人をよそに、立夏は話を切り出す。

 「早速ですが、本題に入りますね。岩濱成行君、アナタとは初対面になるので、改めて自己紹介させてください」

 礼儀正しく話す立夏。

 「はい」と、成行の背筋もピンと伸びる。

 「私は赤鬼あかぎ立夏りっかと申します。東日本魔法使い協会・執行部員です」

 「えっ?執行部」

 成行はその一言を聞き逃さなかった。今日、説明を受けたばかりの用語・執行部。

 今、まさにその執行部のメンバーが目の前にいるのだ。思わず緊張が走る。


 「緊張しなくても結構です。まず岩濱君には、お渡しする物があります」

 立夏はそう言って、足元に置いていた黒いバッグを開ける。すると、そこから取り出したのは通学鞄とスマートフォンだった。それは成行の所有物だった。

 「ちょっと、失礼しますね」

 立夏はそう言ってリビングのテーブルの上に、成行の鞄とスマホを置いた。黒くすすけている鞄。損傷も見られる。スマホも破損し、画面が割れている。

 「これは僕のだ」

 あの廃工場から脱出することで精一杯だった成行。鞄もスマホも気にしている暇がなかった。しかし、立夏はこれらをどうやって入手したのか?


 「これは執行部が昨日、工場爆発現場から回収しました。警視庁や消防に回収される前にゲットできて幸運でした」

 まるで自分のことのように嬉しそうな笑顔を見せた立夏。

 「ありがとうございます」と、お礼をする成行。

 「岩濱君、昨日の一件はアナタの仕業ですね?」

 立夏は笑顔のまま問いかけてくる。

 「ええ、僕のせいです・・・」

 素直に認める成行。後ろめたい気持ちがあるせいで、思わず立夏から視線を逸らしてしまった。


 「待って、赤鬼さん。これには色々事情があるのよ!」

 見事が話に割って入る。

 「勿論、そうでしょう。色々な事情がないとこんなことにはならないでしょうから」

 立夏は優しく微笑んでいるが、少し威圧的な雰囲気を感じた。


 「岩濱君には、これもお渡しします」

 次に立夏は一通の封筒を取り出した。白い封筒で、表には成行への宛名と『召喚状』と明記されていた。

 「どうぞ、ここで開封してください」と言われたので、早速中身を確認する成行。

 中から出てきたのは、『召喚状』というタイトルで始まる文書だった。内容としては、『昨日の工場爆発事件の経緯説明をせよ』とのことだった。召喚主は東日本魔法使い協会である。


「お願いできますか?岩濱君」

 立夏に問いかけられる成行。

「それは勿論、構いません。ただし、見事さんか、雷鳴さんの同行を認めてほしいです」

 成行は言った。昨晩の工場爆発だけでなく、それに至るまでの経緯を全て話さなければならないだろう。

 そうなると、自分だけでは説明しきれない気がした。それに魔法的な知識では、圧倒的に足りていない部分がある。それを補う意味でも、見事か、雷鳴のどちらかの同席が必須だと考えた。


「どちらかとは言わず、お二人にも同席を願いたいです。見事さんや雷鳴さんも今回の一件の関係者でしょうし」

 見事に話し掛ける立夏。そう言われて見事の表情が曇る。

「わかりました。それは母にも伝えます」

 見事は神妙な態度で返答した。

「では、早速で申し訳ないのですが、明日、品川のGSCビルへお越しください」

「えっ?明日ですか?」

 思わず聞き返した成行。それはまた急な話だ。だが、あれだけの大事おおごとを起こしたのだ。それも仕方ないかもしれない。

「わかりました。では―」

 成行が大人しく返答しようとしたときだ。


「待て。私を差し置いて話を進めるな」

 リビングに現れたのは、寝室で寝ているはずの雷鳴だった。

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