「無茶を言う赤鬼さんと、突然やって来る黒髪ショートクラス委員長編(旧:東日本魔法使い協会執行部編)」ペルソナ・ノン・グラータ③

鉄弾

プロローグ 土曜日の夜

 成行は、見事と雷鳴と共に調布市内の静所家へ戻った。時刻は19時半。これから三人で夕食だ。


 今日の日中にっちゅうは何をしていたかといえば、成行、見事、雷鳴、アリサの四人で立川競輪場へ行っていた。

 昨日から立川競輪場ではS級シリーズが始まっており、それを見に行こうという話になった。というのも、今シリーズでは先月開催された特別競輪・GⅡウィナーズカップで優勝した大野おおの義厚よしあつ選手が参戦していることや、高知記念GⅢの場外発売もしているので、雷鳴とアリサが観に行きたがったのだ。


 行くときはアリサのシビックに乗って、彼女の住む立川市内のアパートへ向かった。そこへシビックを止めて、皆で歩いて立川競輪場へ向かった。アリサのアパートは、一応競輪場まで歩いて行ける距離にある。

 だが、このやり方で立川へ向かったのには訳がある。それは雷鳴とアリサが酒を飲みたいから。そして、成行と見事は車券を買えないのだが、そこはその辺の高校生とは違うところ。雷鳴とアリサから、勝ったら何か美味いものを食わせてやると言われて、ついていくことにした。さらに成行自身も、直に大野義厚を見てみたいという思いもあった。


 そんなこんなで昼過ぎから17時前まで立川競輪場にいた四人。

 アリサは夜から仕事なので、そのまま出勤する。成行たち三人とは立川競輪場で別れた。市内の飲食店で働くアリサ。徒歩での出勤とはいえ、軽く飲んで仕事に行くのだ。只者ではない。



 ※※※※※



 この後、大変なのは成行と見事だった。競輪場で飲んで勝負して帰るだけの雷鳴は、最高に良い気分になっていた。

 しかも、今日は固いレースと、穴目のレースでバチっと当てていたので、テンションが非常に高い。

 雷鳴はご機嫌だが、成行と見事はそうもいかない。酔ってハイテンションな保護者が、転ばないようにしっかり見ていなくてはいけない。


「さあ、約束通り美味い物を食わせてやるぞ!」

「わかったから、ゆっくり歩いてママ!」

 雷鳴の足取りを心配する見事。

 成行と見事で、それぞれ左右両サイドから雷鳴をエスコートした。


 立川駅の駅ビルで特上海老天丼を買って南武線に乗った。立川駅から分倍河原駅まで向かい、そこで京王線に乗り換える。調布駅へ到着後、タクシーで静所家付近まで戻った。


 立川駅を出発する頃、酔ってテンションの高かった雷鳴だが、南武線と京王線に揺られて睡魔に襲われていた。静かな分には成行も見事も楽だが、眠った雷鳴を背負うのは成行の使命だ。

「ゴメンね、成行君」と申し訳なさそうな見事。

「いいよ、これくらい何とかなるから」

 苦笑しながら答える成行。

 さすがに雷鳴を背負わせることを、見事にやらせるわけにもいかない。ならば、自分の出番というワケだ。

 JRと京王線での乗り換え。そして、タクシーに乗り込む際、成行はスヤスヤ眠る雷鳴を背負って歩いた。背が高い雷鳴だが、それ以上に驚いたのが彼女の体重だ。

 身長が高いので、それなりに重いかもしれないと思っていた成行。しかし、それは彼の想像を超えた。パッと見て、金持ちそうで美人な容姿をした雷鳴。そんな緩徐を背負ってみると、まるで格闘家を背負っているかのような錯覚に陥る。成行は歯を食いしばり雷鳴を背負った。


 静所家付近でタクシーを降りる。雷鳴を背負う成行と、見事の先には静所家が見えてきた。

「あれ?」と、異変に気づいたのは見事。

「ねえ、誰かいるのかな?」と、成行に尋ねてくる。

「えっ?」

 成行も静所家の方を見る。

 すると、門扉もんぴの前で誰かが立っているように見える。周囲には街灯があるのだが、駅前や商店街ほど明るくないので、その姿がハッキリと見えない。

「誰かしら?」

「わかんないけど、行ってみよう」

 成行と見事はそのまま進む。


 静所家の門扉の前まで来ると、その姿が見える。そこにいたのは群青色のセーラー服を着た少女。年齢は成行と見事と同じくらい。高校生だろう。黒髪のロングヘアをお嬢様結びにして、整ったその容姿は清廉さを感じさせる。そんな少女が黒い大きなバッグを持っていた。

 成行と見事の接近に気づいた少女は、「こんばんは」と頭を下げる。

「こんばんは」と、挨拶を返す成行と見事。


 成行と見事をみたセーラー服の少女。ニコッと微笑むと、こう尋ねてくる。

「こちらは、静所さんのお宅ですよね?」

「そうですけど、何か御用ですか?」

 怪訝そうな表情で答える見事。

「よかった。皆さんにお会いできて。ずっとお留守のようでしたから。申し遅れました。私、赤鬼あかぎ立夏りっかと申します」

赤鬼あかぎさん?あの?」

 見事が驚いた様子で言う。何か思い出したような素振りだ。

「ええ、赤い鬼の『赤鬼』です」

 赤鬼と名乗った少女は笑顔を崩さない。


「見事さん、知り合いなの・・・?」

 雷鳴を背負い直す成行。背負った雷鳴で足元がふらつく。

「知り合いというか、何と言うか・・・」

 歯切れの悪い見事。


「御用があるのはアナタです。岩濱成行君」

 立夏りっかと名乗った少女は成行に視線を向ける。ジッと成行を見る彼女は、愛想の良い笑顔でニコニコしている。

「んっ?僕?」

 なぜ僕に用がある?こんな美少女とは面識はないはずだが、何の用なのか?雷鳴を背負ったまま考える成行。そろそろ、背負ったままの姿勢はしんどいので家の中へ入りたい。

「ここでは何ですから、家の中へ」と、手招きする立夏。

「いや、ここ私たちの家なんですけどね」

 見事は透かさずツッコんだ。

 こうして、土曜の夜に来客があった。



 ※読者の皆様へ

 時系列としては、「猫と喋る魔女の静所さんと、しそジュースを飲んで人間を辞めた成行くん編(旧題:クラスメイトの静所さん編)」ペルソナ・ノン・グラータ①の終了直後とお考え下さい。

 よろしければ、そちらを読んでから、こちらをお読みください。

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