第2話

「のらびと」②


 新中野の線路沿いの洋食屋に入った。ハンバーグ定食を頼んでマスターに声をかけた。

「マスターは昨日の事知ってる?」

「金本さんがやられたったね」

「それ!何か知ってる?」

「金本さんがやられて森本組の若い衆が三人殺された。現場にはペットボトルが一つ転がってたみたいだよ」

「詳しいね!」

「中野署のマルボウが弁当を注文してくれて隣で話してたからね」

「さすがっすね!犯人は誰?」

「知るわけ無いでしょ?」

「だよね!」

俺は無精髭を撫でながら考えた。

 三人が殺された現場にはペットボトルが一つ転がっていた…と言うことは、三人の内1人が飲んだのか犯人が飲んだのか…三人が来るのを待っていてその間にジュースを飲んでたのか…。


「ペットボトルって銘柄は言ってた?」

「覚えてないよ」

「三人が死んでた現場はどこ?」

「中野の寿司屋の路地裏の公園だよ」

「なるほど!あざっす!」

俺はハンバーグ定食を食べてから現場に向かった。


 現場の公園は黄色いテープが張られていて警察官がたくさん居た。鑑識が園内を隅々まで調べていて刑事達もそれを見ていた。


「よう!野上龍じゃねぇかよ!」

いかにも性格の悪そうな刑事が扇子を扇ぎながら俺に気付いた。

「ちわっす」

「お前何か調べに来たのか?」

「えぇまぁ」

「金本組と森本組の事だろう?近藤連合の昭島辺りが探ってこいってか?」

刑事はニヤニヤしている。

「さすがっすね!何か教えてくださいよ」

「一つ教えてくれたら俺も教えてやる」

「なんすか?」

「これは抗争か?」

「違います!それしか言えません」

「そっか、最近は平和だもんな!ウチものんびり出来てるよ。で、何が聞きたい?」

「犯人は誰ですか?」

「金本を殺したのは三人で間違いないぜ、だが三人を同時にもみ合いにもならずに殺してる…山手通りから走ってここまで来た男三人を同時に殺すなんてな…しかもこの状況からすると一人だよ…今はそこまでしか解ってない…この情報で五万な!」

「チッ!」

舌打ちしながら五万円を刑事に渡した。

「あ!現場に落ちてたペットボトルって銘柄なんですか?」

「エビアンだよ」

「ありがとうございます!」

「あ!野上龍よ!昭島にいつも通り月末に顔出すって言っといてくれな!」

俺は頭を下げてその場を去った。卑しいデコスケめ!っと、気を取り直して近所の自販機を探し歩いた。


 高円寺方面へ歩いていると伊藤園の自販機を見つけた。自販機は三階建ての単身者向けのマンションの入口である。

 そこにはエビアンが売っていた。

 敷地内を見ると単車が停まっていて、格好いいカフェレーサーのsr 400であった。カスタムされているがおそらくオーダーメイドカスタムであろうと思った。

 気が散ってしまったのを振り払い高円寺方面へ歩き始めるとn3を着たバイカー風のファッションの若い女と擦れ違った。足元を見ると履き込まれたドクターマーチンで左足の甲がへたっていた。

 俺は閃いたー。

 あのバイクはあの女の物だ。ギアチェンジするときのブーツのへたり方をしていたのである。そして、女の履いていたデニムが桃太郎であった。


つづく

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