のらびと
門前払 勝無
第1話
「のらびと」①
夜の山手通りに舞う砂埃が車のライトに反射しているー。
いつからやってんだ、この工事はー。
安っぽいクラクションが鳴った直後に野太い怒鳴り声が響いた。
渇いた銃声が三発ー。
中野方面へ走り去る三人の人影ー。
「やったのか?」
息を切らしながら山田が言った。
他の二人は何も言わずに約束の公園へ走った。
静かな住宅街にある公園のブランコが揺れている。
飲みかけのエビアンのペットボトルが一つ転がっていて三人の男達の死体が転がっている。
いつも通りの朝ー。
インスタントコーヒーとヤマザキのアンパン。
携帯がピカピカ光っていて十件の着信が入っていた。
液晶を見ると世話になってるヤクザからだった。
掛け直すー。
「電話は一回ででろよな!」
いきなり怒鳴られた。
「さぁせん!どうしました?」
「なにが“さぁせん!”だよ!まぁいいや」
「さぁせん!」
「昨日の夜に金本がやられたの知ってるか?」
「いいえ…寝てました」
「だろうな!そんでよ。中野で森本の若い衆が三人死んでたんだよ。恐らく金本を三人がやって、その三人を誰かがやったんだよ」
「複雑ですね」
「だろ?お前なにか調べとけ!」
「え?無理っすよ!稼業関係の仕事は怖いっすよ」
「やれ!わかったな!とりあえず事務所に午後に顔出せ!じゃあな!」
一方的に電話を切られた。
「くそ!掛け直さなきゃ良かった!」
何故だか焦らされている。威圧するような言い回しで支配しようとしてくる。無理矢理関わりを持たされてしまうー。
溜息をつきながら俺は冷めたインスタントコーヒーとアンパンを食べて時計を見た。
十二時…もう午後じゃねぇかよ。
五差路を越えて陸橋を渡り、タバコをくわえながら池袋北口にある事務所へ向かった。
繁華街の昼は汚くて生ゴミの臭いがする。飲み屋の前のゴミにカラスが群がっている。サドイッチマンの乞食が無意味に睨んでくる。風俗店の黒服が店頭で冴えないサラリーマンに声をかけている。ブスな女はあちこちの店に出勤。毎日の変わらない風景だが人間の顔ぶれは直ぐに入れ替わる。同じ種類の人間しかいないのだが…。
俺はチケット屋の脇にある階段を上がった。
「龍です!失礼します!」
事務所へ入った。
「おう!早かったな!入れ!」
パンチパーマの昭島ーさっきの電話のヤクザである。
「金本と森本が揉めてるなんて誰もしらねぇんだよ!原因もわからねぇし!森本も何が何だかわからねぇって本部に言ってるし金本の所のカシラもわからねぇってよ!四人も死んでるのに何にもわからねぇんだよ」
「それ…おれも解らないですよ。身内で原因を突き止めた方が早いんじゃ無いですか?」
「それはこっちでやるけどお前は何でもいいから調べろ!これやるから!」
昭島は茶封筒をくれた。
受け取り中身を見ると金が入っていた。
「前金だ!何か解ったら残りをやるよ」
「見積作りますよ」
「そんなもんいらねぇよ!早く行け!」
俺は追い出されるように事務所を出た。
茶封筒の中身は五十万円ー。
とりあえず俺はベローチェでコーヒーを飲んだー。
つづく
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