第8話:ナサニエル国王の決断・ノーマン視点

「ノーマンの話が本当ならば、ヒルダ嬢を他国に亡命させるわけにはいかないな。

 まあ、ノーマンが嘘を言うはずもないし、嘘をつく必要もないしな」


「父王陛下の事ですから、随行した家臣全員に証言させておられるのでしょう。

 だからこそ私も堂々と言い切らせていただきます。

 ヒルダ嬢はまだ何か切り札を隠しています。

 絶対に敵に回すべきではありません。

 積極的に王家に取り込むべき人材でございます」


「まあ、それは当然の事であろうな。

 問題はヒルダ嬢の出したオーウェンにサヴィル公爵家を継がせるという条件だ。

 これが絶対に受け入れられない事はヒルダ嬢も分かっている事であろう」


「父王陛下もご理解しておられる通り、条件闘争だと思われます」


「ノーマンはどのあたりが落としどころだと思うか」


「独立した爵位を与えることができない事は、ヒルダ嬢も分かっているでしょう。

 ようはヒルダ嬢とオーウェンの面目を立てるという事でしょう。

 王家が与える爵位ではなく、サヴィル公爵家が一族か家臣に貸与できる、最低の従属爵位を与えればいいのではありませんか」


「最低の従属爵位といえば男爵か。

 サヴィル公爵家に一門や家臣に男爵位を与える権限を認めるのだな」


「はい、オーウェンに与える男爵位に必要な領地は、サヴィル公爵領の一部を割譲して与える形にすればいいのではありませんか。

 ヒルダ嬢が亡くなるかオーウェンが亡くなるかしたら、後継者は士族の準男爵にして、男爵位は当主か一門が名乗ればいいのではありませんか」


「その辺が落としどころだな。

 問題はヒルダ嬢の結婚相手だが、ノーマン以外には考えられないだろうな。

 一度大失態を犯したメイナードは王位継承権を剥奪して修道院に入れる。

 真実の証言で大恥をかいたモノに王位継承権は与えられないからな。

 それにモンタギューを選んでノーマンと殺し合いさせる訳にはいかんからな。

 余にとってはどちらも可愛い息子だからな」


「ありがたき幸せでございます」


 困ったな、父王陛下に要注意人物だと目をつけられてしまった。

 まあ、それも仕方がないだろうな。

 俺がサヴィル公爵家に婿入りしてから領地の収穫高が三倍になるのだ。

 単純計算でサヴィル公爵家の軍事力が三倍になる。

 その力を背景にモンタギュー兄上と王位継承を争うことになる。


 ヒルダ嬢と婚約していた事と長男である事で、一番王位継承に有利なはずだったメイナードがこけてしまったのだ。

 メイナードに近寄っていた貴族達は、大慌てでモンタギュー兄上か私に鞍替えしようとしているだろが、どう考えての十中八九私が王位を継ぐことになる。


 上手く私がその全員を自分の派閥に吸収できればいいのだが、元々モンタギュー兄上を押していた側近達は形振り構わず必死で動くだろう。

 一番の問題はヒルダ嬢が清廉潔白過ぎる事だ。

 メイナードに近寄っていた薄汚い貴族達のことは大嫌いだろうしな。

 王位継承争いで血を流さずにするためには、どうすればいいのだろうな。

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