第7話:驚愕と交渉

「なんてことだ、こんなことができるのか。

 信じらない、信じられないが、現に目の前にできている。

 どうやったのだ、どうやればこんな事が現実にできるのだ。

 まさか、この帳簿が嘘偽りだという事はないだろうな」


「何をバカな事を言っているのですか、殿下。

 私が自分のお金をつぎ込んで開拓した村ですよ。

 収支を誤魔化しては私が損をするだけではありませんか」


「だったら、だったらヒルダ嬢が村の者達に騙されているのでは……」


「殿下、本気で言っているのなら私も本気で怒りますよ。

 それはわたくしが領民に騙されるようなバカだと言っているのですよ。

 そのような事あるわけがないではありませんか。

 私はこのやり方をサヴィル公爵家に取り入れようとしているのです。

 嘘偽りを行っていたら、領民に塗炭の苦しみを味合わせることになります。

 絶対に数値を誤魔化すような事も騙されるような事もありません」


「そうか、そうだな、そんな事をやっても全く意味はないな。

 それに、王家が取り入れる前にサヴィル公爵領で試せばいい事だ。

 数年、いや、十年程度遅れても何の問題もない。

 ヒルダ嬢のやり方を取り入れなければ、そもそも収穫高は同じなのだから」


「で、どうしてくれるのですか。

 私の待遇はどうなるのですか。

 サヴィル公爵家とオーウェンをどう遇してくれるのですか」


「……はっきり言わせてもらうが、グロリアとヘーゼルは許せない。

 特にグロリアには、ヒルダ嬢の母親アイリス夫人を殺した疑いがある。

 断固とした態度で臨まなければいけないのだ。

 それにヒルダ嬢も実の母親を殺された恨みがあるんじゃないのか。

 それでもオーウェンを見逃せと言い切るのか」


「……そうなのですか、それではオーウェンを見逃すのは難しいですね。

 でもその難しい要求を私がしたらどうなるのですか」

 

「そうだね、これはまだ僕の私見で国王陛下の裁可をいただいたわけではないが、それでもいいかな、ヒルダ嬢」


「ええ、構いませんわ。

 殿下の私見を伺わせていただければ幸いですわ」


「まず最初に今回の婚約破棄の正邪を確かめるために、メイナード兄上とヘーゼル嬢に真実の証言を受けてもらう。

 この時にアイリス夫人の暗殺について知っているのか確かめる。

 知っていればそれを証拠にグロリアにも真実の証言をさせられる。

 その時にオーウェンも一緒に真実の証言をさせる。

 それでオーウェンが過去のアイリス夫人暗殺の件を知らなくて、今回の婚約破棄事件にも加担しておらず、何の罪も犯していないと証明できれば、重大犯罪者の家族とはいえ恩赦を与えることができるだろう。

 それでどうだろうか」

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