第34話 クラン中尉
「クラン中尉であります。入ってもよろしいでしょうか?」
コンコンとノックをすると、返事をする前にクランは部屋に入って来た。
「部屋を横切ろうとしたらいい匂いがしてね。イリアちゃん、私にも1杯頼めるか」
部屋に入るなりクランはソファにだらっと腰掛け軍服のホックを外す。
「すっかり馴染んでますね」
着任してからクランはシェリの士官室に何度も訪れている。廊下では隊員が見てる可能性があるので気をつけているが部屋に入るとこの様である。
クランはルーウェンの7つ上で24。2本の剣を帯剣する赤髪ロングの女性。シェリと同じくらいの身長だが、比べて胸元がやや寂しい。厳しさと優しさを兼ね備え隊員から人気の小隊長。
「この書類の山は、今までどうしていたのですか?」
「ひと月前まではギュンター中尉がやってたが異動になってね。誰も出来るやつが居なくて困ってたんだよ。レオン大尉は頭より体を動かすタイプだし」
「ギュンター中尉は優秀な方だったんですね」
「退屈なやつだよ。話しが合わん。普段から手分けをしていればこんなことにならなかった」
コーヒーを持ってきたイリアをクランはぎゅっと抱きしめる。抵抗しているイリアをクランは楽しそうに弄ぶ。歳も1周り以上離れていて、新しい玩具が出来たと思っているのだろう。
「今度、クラン中尉の小隊を見学しに行ってもよろしいですか?」
「歓迎するぞ。お前たちの話しは隊員みな耳にしている。10人で中隊を倒したのだろ。小隊相手じゃ物足りなくてすまんな」
期待値が高すぎて辛い。エスハイゼン行きが決まってからサラと特訓してきたので少しは強くなっているが、あの2人とは格が違う。
「あれは、メル中尉とコンラッド家の娘の仕業です」
後でガッカリされたくないので否定しておく。
「ああ、あそこの長男とは士官学校が一緒でな。今は領主名代やってるのだろ。笑っちゃうよな」
きっと変わり者だったに違いない。どんな人物だったか今度話しを聞いてみたい。
「お兄さんには酷い目に遭わされました」
クランは、うんうんと相槌をうち笑っている。やはり、心当たりがあるようだ。作業を再開していたシェリとイリアの手が止まる。話しの続きを聞き耳を立てて待っているようだ。
「邪魔したな。そろそろ行くわ」
やる事はお互い山ほどある。コーヒーを飲み終えると、ガッカリする2人をよそにクランは足早に部屋を後にした。
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