第31話 休日6
宿に戻るルーウェンの足は重かった。これからメルに話さなければいけないと思うと胃がキリキリした。イリアはどうするのだろうか。
「ルーウェンさんが行かなくても、私は行くです。別に昇進に興味はないのだけど、お家の為だし父も喜んでくれるです」
小さいただの少女だと思っていたが俺より、しっかりしている。イリアと別れ考えながら歩いているとあっという間に宿に着いてしまった。
「た、ただいま」
緊張しているのか。落ち着くんだ。ルーウェンは深呼吸をして部屋に入る。
「今日は疲れたから風呂に入るよ」
考えをまとめる時間を作らなければいけない。
「わかりました。出たらご飯にしましょう」
よし、ご飯を食べたらすぐに寝てしまおう。そうしたら朝だ。明日にでも話そう。腹を括ったはずなのに弱気なルーウェン。しかし、夕食で浅はかな考えは打ち砕かれた。
「それで、行くのですか?」
食事をしているとメルから思わぬ言葉が返って来た。
「すまない。よくわからない」
往生際の悪いルーウェンは誤魔化そうとする。飲もうとしてた水はテーブルに溢れている。
「シェリさんから聞いたのでしょ」
なんで知っている。シェリの両親も知らない筈だ。
「どうして知っているのでしょうか?」
都合が悪いとルーウェンはよく敬語になる。
「何を言ってるのですか。ルー様を連れて行くのに私に確認しない訳がないでしょ」
確かにそうだ。シェリ先輩も人が悪い。最初から教えてくれたら良かったのに。
「私を置いていかれるのでしょうか?」
「1年だけここで待っていて欲しい」
「考えに変わりはないですね」
「すまない」
「はあ、ルー様はやっぱり年上好きなんですね」
やっぱり、そうなるのか。違うと否定したかったけど今はメルに説明をするのが先だ。
「それで、私も行くことにしました」
ルーウェンは聞き違いかと思った。メルの顔をまじまじと見る。
「だから、私も行くことにしました。ルー様には私が必要なので少しだけ無茶をさせて貰いました」
メルが言うに、シェリ先輩から相談を聞くとその足で校長室に行きエスハイゼン行きを志願した。それから、繋いでもらった軍の偉い人と話しをつけて許可をもらったようだ。メルの剣の腕は、この間の大会で軍の上層部も知っているので大歓迎された。大歓迎ついでに着任と同時に中尉に昇進させて貰えるらしい。はいはい、ちょっと待てよ。俺の立場はどうなる。
「さすがにルー様と一緒に行動するとまではいかなかったですけど、住む場所は同じです」
手回しは万全みたいだ。先程から驚き過ぎて一言も喋っていない。あの、メル? だから俺は少尉なんだけど……。
「残念でした。私を置いて行くなんて10年早いです」
なんだか釈然としないが、これからもメルといられることに胸を撫で下ろした。
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