第30話 休日5

 ルーウェンとイリアはぬいぐるみのたくさん飾られた部屋でコーヒーを飲んでいる。今日は事前にお呼ばれされてここに来ている。


 部屋の向こうではシェリ先輩とシェリママが言い合いをながらお菓子を運んでる声が聞こえる。以前、来た時と同じことをしている2人が面白く、イリアは隣りでクスクスと笑っている。しかし、ここからは前回と違った。


 最初は大人しくしていたシェリパパも今日は参戦している。ルーウェンは、この両親に育てられてよく人見知りの少女が出来上がったもんだと不思議に思っていた。


 はい、1番最初に入って来たのはシェリパパでした。


「この間の大会では娘が大変お世話になったそうで。授与式では話す時間が無かったので、お礼を伝えたくて今日は娘に2人に来て貰えるように頼みました。娘をありがとうございます」


 最近パターン化しているようだが褒められたり、感謝されるときは決まってこの2人のときだ。お礼を言われ2人は会釈して返す。ただ、ルーウェンとイリアが思っていることは同じでそれのお礼は自分たち以外に言って欲しい。活躍していないと言わないが、素直に受け取るには心に少しやましさが残る。


「こちらこそ、シェリ先輩が居なかったらこの結果にはならなかったです」


「このシェリがねぇ。大きくなったな」


 ようやく部屋にたどり着いたシェリ先輩の頭をシェリパパは撫でて喜んでいた。


「パパ、恥ずかしいから止めて」


 遅れて入ったシェリママは両手でシェリの頬を撫でている。よくわからない。両親は本日の目的を果たしようで、シェリに文句を言われながら居間に戻っていった。


「先輩はパパって呼ぶのです」


 シェリは恥ずかしくて両手で顔を押さえる。


「忘れて下さい」


 指の隙間から2人を見つめ、お願いする。シェリ先輩の行動はいちいち可愛いい。


「変なことじゃないから大丈夫ですよ」


「ほんと?」


「はい」


 イリアだって家ではパパと呼んでるだろうに。時間が経って冷めてしまったコーヒーに手を伸ばす。


「それで、今日来てもらったのはもう1つ理由があって」


 先程までの表情とは変わり、真面目な顔で2人を見ていた。きょとんとした顔で2人はシェリの話しを聞く。


「まだ両親にも話してないのだけど、私の卒業が1年早まり来月になったの。エスハイゼン領の守備隊に配属されるのだけど数人の部下を連れていっていいと言われたわ。嫌じゃなければ、2人には着いて来て欲しいの」


 シェリはそう言って、ベッドに置いてあったクマのぬいぐるみを抱え、頭をペコっと下げさせた。シェリ先輩の頼みならなんでも聞いてもいい。しかし、メルは許してくれるだろうか。


「もう少し教えてくれませんか?」


「任期は1年で、2人には護衛官として私と行動をしてもらいます。扱いは見習い士官の少尉で権限は特にないわ。学校は出席扱いで場合によっては卒業扱いでもいいと言われてる。任期終了で階級も上げて貰えるそうよ」


「わかりました。メルに話してみます」


「私も父に相談してから返事するです」


 条件は悪くない。行きたい気持ちもあるがやはりメルを置いて行くなど考えれない。しかし、ルーウェンはシェリ先輩を昇進させた責任があるので簡単に断ることは出来なかった。


「無理に返事はしなくていいから」


 帰り際、シェリは念を押した。頼りはするが負担にはなりたくないのが本音だろう。ルーウェンはまだ悩んでいたが、手を振ってルーウェンたちを見送るシェリの細い腕を見て、腹を括ろうと決めた。

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