第23話 交渉

「あなたたち、本当はどんな関係なの?」


 サラはメルに問いただす。


「ただの兄弟ですよ」


 どうしても、先程の空気や会話はサラには兄弟のそれには見えなかった。ほかのみんなもそうだろう。


「まぁいいわ。失敗してルーウェンに笑われるのは癪だからちゃんとやるわよ」


 緊張しているシェリにサラは追い打ちをかける。


「私で大丈夫でしょうか?」


 もじもじしているシェリは可愛かった。ルーウェンがいたら鼻の下でも伸ばしていただろう。シェリは口下手で知り合い以外まともに会話が出来ない。交渉なんて出来るはずがなかった。


「隊長は先輩なのだからほかにないわ」


 無理難題をスパっといいきる。


「サラちゃんは意地悪言わないの。私が話すからシェリ先輩はただ同意を示してくれるだけでいいわ」


「わかりました」


 停戦旗を掲げている場所に戻り、α隊の生徒に案内されシェリたちはα隊の隊長の待つテントに入った。そこには10数人の生徒が待ち構えていた。


 メルは挨拶を済まし交渉を切り出そうとしたとき背後に立っていた生徒が剣を抜きシェリに襲い掛かかってきた。最初に動いたのはサラだった。


「やめた方がいいわ。横の彼女は襲われるようなら殺していいと言われてここに来ているわ」


 メルも気づいていたがサラは生徒を殺されては不味いのでいち早く動いた。サラは冷や汗をかいている。もちろん襲い掛かって来た相手にではなく隣りのメルに対してだ。


「馬鹿げてる。ただの訓練の大会だろ」


「あなたがやったことも馬鹿げてると思うわ」


「すまなかった。総意ではないんだ」


 目の前にいる隊長と思われる生徒も頷く。


「では、こちらの言うことを全て飲んでもらうわ。でなければ私はあなたたちを保障しない」


 サラも人が悪い。シェリにプレッシャー掛けて置いて1人で交渉をまとめてしまった。しかも、交渉内容を一言もいわずに。


 ほっと胸を撫で下ろすシェリは気づいてないが10人の小隊で中隊を手玉に取り、交渉をまとめた小隊長という功績を立ててしまっている。


 サラは生徒を制止させた時、ルーウェンの名を出して無かった。指示を出したのはみなシェリだと思っている。この1件ののち、フィック(サイレントフィクサー)に手を出すと命がないと噂されることになる。いいえ、ただの口数の少ない可愛らしい少女です。


 交渉も終わり、上機嫌のサラと2人をルーウェンたちは出迎えた。


「上手くいったわ」


 例の1件は説明しなかった。交渉もまとまっているので無駄な混乱を避けたかったのだろう。要求なしで全権を委ねる。ルーウェンはどんな手を使ったのか疑問に思ったが穏便に済んだならいいと考え追求しなかった。

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