第22話 激突

 左に飛び込んだのはメル。


「ハァァァ!!!」


 抜剣すると同時に3人を薙ぎ払う。訓練とはいえ容赦がない。躊躇して立ち止まっている生徒たちを次々と倒していく。


 右に向かったサラも負けていない。一瞬で懐に入り剣で頭を小突く。こちらは徹底して外傷にならないよう攻撃している。容赦ないメルと違い配慮を感じるが失神させられている事実に代わりは無い。


 小隊はあっという間に壊滅した。


 再度、小隊が投入される。戦場を駆けるメルとサラの連携は意外にも良くルーウェンは目を奪われていた。


「……出番がないな」


 このままいけば2人だけで押し切れそうなムードが漂っていたが相手も馬鹿じゃない。続けて小隊をもう1つ動かしてきた。


「シェリ先輩とイリアは任せた。ナーシャ先輩、一緒に来てくれますか?」


「任せて。ほら、エリスも行くよ」


 ハルトにシェリ先輩たちを頼み、ルーウェンは2人の先輩と2つ目の小隊を止めに向かう。


「正面から行きます。2人は左からお願いします」


「酷いことを考えるわね」


 ルーウェンの狙いにナーシャは気づいたようだ。右側ではメルとサラが先に繰り出した小隊と交戦している。そこに向かって、左から押していけば2人に大部分を押し付けて戦える。メルとサラに2個小隊を相手をさせようなんて所業はルーウェン以外、思いついてもまずやらない。少数精鋭のルーウェンたちはなるべく戦場を広げたくないので一石二鳥でもある。


「なんか増えてない?」


 メルは戦いながら違和感に気付く。話していても手は止めず、また1人倒している。


「ルーウェンの仕業ね」


 サラは左にあっちと顔で合図をする。


「一生懸命戦っているように見えるけど、褒めていいのやら」


 2人は強いと言っても体力には限りがある。


「戻ったら仕返ししましょ」


 普段、ルーウェンに甘いメルでもさすがにお怒りのようだ。


 ナーシャちゃんは強い。シェリ先輩の言葉に偽りは無かった。まるでダンスでも踊っているような華麗なステップで攻撃を交わし、相手を倒していく。エリスはナーシャが倒し洩らした生徒を動きがぎこちないが次々に攻撃していった。


「エリス先輩大丈夫ですか?」


「仕方ないじゃない。靴が合ってないのよ。お気に入りだったのに台無し」


 台無しなのは靴だけじゃない。可愛らしいポーチは土で汚れ、髪につけていたリボンは無くなっている。エリスの思い抱く楽しいピクニックはすでにそこになかった。


「今度、靴プレゼントしますね」


「リボンもお願いするわ」


 約束を反故にしたのだからルーウェンにはそれくらいの義務がある。


「私はスイーツがいいわ」


「はいはい、なんなりと申し付け下さい」


 ナーシャも便乗してきた。このあとメルやサラも待ち受けているがルーウェンはまだ知らない。目の前の相手を1人1人倒していく。


 半数くらい倒しただろうか。α隊の隊長は撤退を指示する。ルーウェンたちは相手が後ろを向いて引いていく隙を見逃す訳はなかった。1割ほど逃がしたが2個小隊はものの見事に壊滅した。


「そちらの隊長に話しがある」


 停戦旗を掲げこちらに交渉をもち掛けてきた。


 ルーウェンたちは距離を取り、1度相談をすることにした。先程の戦場では倒れた生徒の回収を始めていた。もちろん死んでいるわけではないので自身で歩いてテントに戻る生徒もいる。


「ルーウェン、やったわね」


 サラは怒っていた。黙っているメルの視線も痛い。


「この落とし前はつけてもらうわ」


 指でも詰められそうな空気だ。許しをこうしかない。


「すみません。なんでもします」


「なんでもっていったわね。わかった。考えておくわ」


 このやり取りは前もしたような。許してくれるならいいか。それよりも交渉をどうするか話し合わなくてはならない。


「α隊の半数以上を壊滅させることが出来てます。有利な交渉が出来るのではないでしょうか?」


 ルーウェンは提案する。


「このまま全滅させればいいじゃない」


 先程倒した人数より少ないのだからサラの言うことももっともだ。


「小隊を配下につければ次の相手が楽になると思います」


「相手は上級生よ。応じてくれるかしら」


 上級生のプライドもあるし言うことを聞いてくれるかわからない。それでも全滅させられて恥をかくよりマシだから従ってくれるとルーウェンは予想する。


「もしかして、交渉すると嘘をついてシェリを倒すつもりかもしれない」


 エリスはシェリを心配する。確かにありそうだ。


「メルとサラを同行させよう。あくまで大会だしそんな馬鹿なことはないと思うけど、もし仕掛けてきたら殺しても構わない」


 騙してシェリ先輩に手を出すなら報いは受けてもらうしかない。


「大袈裟な」


 ケイは冗談だと思い、とりあえず反応を伺う。


「メル、頼んだぞ」


「ルー様の命令なら」


 本気のようだ。


「ちょっと……」


 話し合いは終わりシェリたちは交渉に向かった。ルーウェンはお留守番なので大人しく吉報を待つ。

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