第11話 買い物

 ルーウェンは公園で人を待っていた。珍しくメルが横にいない。5分くらい待っていると先輩が現れた。


「おはようございます。今日はすみません」


 ルーウェンが挨拶をするとぺこりと先輩はお辞儀をし2人は公園を後にした。


 休日だというのに制服なので先輩の私服姿を見てみたかったとルーウェンは思っていたが校則で決まっているので仕方がない。先輩は精一杯のおしゃれなのかいつもと違う髪留めをしていた。


「その髪留めも似合いますね」


「……」


 歩きながらルーウェンは先輩を褒める。少し頬を赤らめ先輩は嬉しそうだった。


 先輩を買い物に誘ったのには理由がある。もうすぐメルの誕生日で日頃の感謝を伝えたくてプレゼントを選ぶためだ。


 買おうにも贈り物をした経験があまりなく何を選べばいいのかわからないのでメルに年の近い先輩に着いてきてもらうようにお願いした。


 プレゼントを買う今日までに数ヶ月に渡る準備の期間がかかった。馬車にあった資金はまだまだあるし士官学校から毎月支払われる給料もある。しかし、お金の管理はメルがしているためルーウェンはお金を手にする機会が少ない。別にメルのお伺いが必要なわけではなく欲しいものは自由に買える。普段困らないがこういうときだけは厄介だ。メルに怪しまれないよう少しずつお金を残してきた。


「イリア、遅いわよ」


「……すみません」


 ルーウェンたちから少し離れてメルとイリアの姿があった。昨日からなんだか怪しいルーウェンをメルは見逃さなかった。そもそも帝国に来てからルーウェンがメルと一緒にいない日はないのであからさまに不自然でメルでなくとも気付く。


 帽子に眼鏡と変装の基本セットでメルとイリアは尾行をしていた。


「制服なのですぐバレます」


「仕方ないでしょ。校則で決まってるんだから。イリアも興味あるでしょ」


「ないわけではないです」


「大人しい子だと思っていたけどやるわね」


 ルーウェンが買い物に来た理由を知るわけはなくメルは先輩に対抗心を燃やしていた。ルーウェンたちはテラスでコーヒーを飲んでいる。


「私たちも休憩しませんか」


 イリアは提案してみたがメルは近づいたらバレると却下した。


「ルー様は年上が好みだったとわね」


 イリアやサラをずいぶん可愛がっているように見えたのでメルは意外に思っていた。ルーウェンたちは歩き出し露店で足を止めた。はたから見たらただのデートのようだ。


 ルーウェンたちは露店でアクセサリーを眺めている。


「どれがいいんだろうな」


 先輩は手に取っていくつか見せてくれていた。相変わらず話しは出来なかったが一生懸命に選んでくれていることは伝わった。隅の方にあったシルバーのピンに青色の石の髪留め。これは先輩に似合いそうだな。後でお礼に買っておこう。


 何件か店を回りメルの喜びそうなものを無事に選べた。


「先輩、今日はありがとうございました。あとよかったらまだ名前を聞けてないので教えて下さい」


 買って置いた髪留めを先輩に渡しルーウェンは先輩にお礼をした。


 貰った髪留めをつけると先輩はルーウェンの耳元で口を手で覆い「シェリ。今日は楽しかった」と答えた。近づいた先輩からする甘い匂いにルーウェンの鼓動が速くなった。


 先輩と別れ宿屋に帰ったがメルはいなかった。珍しいこともあるものだ。


 一方、露店を回るルーウェンたちを途中で見失いメルとイリアはサラと以前勝負したビュッフェの店に来ていた。


「見失ったです。諦めましょ」


「姉としてルー様の成長を確認したかったのだけど」


 がっかりしているメルに「はいはい」と相槌を打ちながらイリアはルーウェンとメルはいったいどういう関係なのかと考えていた。姉なのにルー様?


 数日後、メルに誕生日プレゼントを渡した。エメラルド色の石のブローチをメルは胸の上で両手で抱え、とても喜んでいるように見えた。

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