第7話 軍事訓練

 入学して数ヶ月が過ぎていた。サラとメルの勝負は何回も行われていたが剣での勝負は未だに見ていない。サラの鞄から財布が出て来たときは流石に笑った。


 ルーウェンはハールと一方的に仲が良くなりハーくんと呼ぶまでになった。たまにハルトもこちらを振り向くが気にしないようにした。


 今日は初めての軍事訓練の日。ベルツブルクはずれのグーリン森に向かう。10人の小隊に分かれるためくじ引きをし、結果ルーウェンはハールの率いる小隊になった。


 数時間森を歩いているがまだほかの小隊と遭遇していない。背負っているリュックは数十キロあるのでルーウェンは疲れを感じていた。ハール小隊にはサラもおり、ようやく剣の腕を見る機会が来たと期待していた。


 意外にもハールは地形把握のに長けていて小隊の指示出しも手慣れたものだった。今日は敬意を込めてハー殿と呼ぶことにしよう。


「ハー殿、見事な指示に感動しました」


 ハールはやれやれとした表情で答える。


「ハー殿はよしてくれ。うちはノートブルク領を任される家で森と山が多い。よく父に連れられて指揮する姿を見ていたからこのくらいは出来るさ。実際に指揮するのは初めてだけどな」


 もしかしたらハールの方が優秀なんじゃないかとルーウェンは思った。剣では勝ったがここは指揮官を目指す場所。機会があれば小隊同士で1戦構えてみたい。サラの気持ちが少し理解出来た気がした。


「なによ……」


 まじまじと見てたルーウェンの視線に気づきサラは警戒してこちらを見る。


「サラも健気だなぁと思ってな」


「気持ち悪いわね」


 サラに煙たがられた。くだらない会話していると隊員が前方に別の小隊がいたと報告に戻って来た。


 ハールは決めかねていた。別小隊がいた場所に突入するのは危険。ルートを先回りし待ち伏せするか、相手もこちらを発見していると読んでこの周辺で開戦の準備をするか。


 実戦ではないので死ぬ事はないが貴重なこの機会は実戦と想定して行わなければならない。


「ルーウェン、お前ならどうする?」


「ハー殿、こちらで迎え撃ちましょう」


「どうしてだ」


「先回りして準備するには正確なルートを導かなければいけないし情報も足りない。移動して準備となると体力と時間の問題もある。ここならルートを絞る知恵が必要ないし、体力の消耗も減らせる」


「敵が来なかったら?」


「テントに戻ってカレーを食べましょう」


 正解かはわからないがハールは良い案だと判断し行動を指示する。ルーウェンは歩き疲れたので今日はこれでおしまいのつもりでいた。


 ルーウェンの気持ちを知ってか戦端はすぐ開かれることとなった。しかも王子が率いるハルトのいる部隊だ。


 迎え撃つ準備は間に合わなかったのでそのまま10対10の勝負となった。


 どうする。王子とハルトをなんとかしなければならない。


「サラ、王子を頼めるか?腕は確かで間違いないな」


 ルーウェンはサラの剣の腕を未だに知らないがメルに勝負を挑むのだからそれに頼る他ない。


 しかしハルト相手に俺は生き延びることが出来るのか?いや無理だろう。サラが王子をやれば終わる。それに期待して長引かせよう。そうだ、隊長のハー殿は?


 ルーウェンはハールの心配をしたが余計なことだった。残る7人を指揮し勇敢に戦っていた。


「ルーウェンが相手か。悪くないな」


 ハルトは嬉しそうにこちらに近づいてくる。反対に絶体絶命だとルーウェンは覚悟した。

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