第20話
浩二はエリトアに導かれてハルタミナの第一艦橋へ入った。
あまりの広さに目眩がする。
前方の特大モニタには、みずいろの海中が映し出され、その光で艦橋内が青く照らし出されていた。
「……す、すげぇ」
浩二はやっとのことで声を絞り出した。
「何から説明いたしましょうか? 」
エリトアは、艦橋内の一番うしろにある談話スペェスの椅子に腰掛けて、笑顔で浩二を向かい座るよう促した。
「なにから聞いたらいいのか……」
浩二はキョロキョロと天井を見たり辺りの機械を見たりしながら座った。
「そうだ。まず、なぜ俺に秘密を話すのか、それが聞きたい。なぜだ? 」
浩二は両膝に両肘をついて鼻の前で手を合わせ、いつになく真剣な表情で聞いた。
「そこは核心の部分ですよ」
エリトアはそれはまだ云えないという風に笑った。
「じゃあ、地球が狙われてる訳とあんたらが地球を守ってきた訳を話してくれ」
浩二は堅い表情を崩さずに聞いた。
「怖い顔」
エリトアは、そう云って笑ってみたが、浩二の表情は変わらなかった。
エリトアは諦めて席を立ち、モニタの方を見て話をはじめた。
「私たちの星、プレオミスです。本当に美しい星でした」
モニタにエメラルドグリインの星がうつる。
浩二は表情を変えた。それほど美しい星だった。
「プレオミスは、一億年も前にベエタ星の軍隊によって侵略されて、滅びてしまいました」
モニタには、真っ黒になったプレオミスが映しだされた。
「今では、豊富な資源が眠っていたことから、ベエタの工業星の一つとして、星中が工場になってしまいました」
エリトアは少し目線を落とした。
「同じ星とは思えない……」
浩二は思わず呟いた。
「生き残った私たちは、この船、ハルタミナでミルキィウェイ、つまりこの地球がある天の川銀河に逃げようとしましたが、失敗したのです。その座標から割り出して、奴らはミルキィウェイを知りました。私たちは、まだ金星に人が住んでいたころに、金星の人々と交流がありましたのでこのミルキィウェイと地球の存在を知っていたのです。それが、奴らにバレてしまった」
浩二はあんぐりと口を開けて聞いていた。
「金星に人が? 」
馬鹿云っちゃいけないとばかりに、防水ケェスからタバコを取り出した。
「以来、ベエタは地球侵略を狙っています」
エリトアは、タバコをふかす浩二の「それならなぜ一億年も侵略せずにいるのか? 」という疑問に、リアルク協定やハルタミナ墜落の経緯を話した。
「なるほど。そのエンなんとかっていう要するに良心の壁が無くなった時、奴らの侵略がはじまるってわけだな」
浩二はそう云って、今まで回ってきた世界を思い出す。
たしかに、どこもかしこも腐りきっていた。そんな世界にどっぷり浸かって自分も腐りきっていた。自分一人とってみても、今更どうにもしようがなく思えた。
エリトアが出した灰皿がいっぱいになっていた。浩二が精一杯平静を保とうとしているのがわかる。
「あぁ! 」
浩二は急に大きな声をだした。
「?」
エリトアは不思議そうに浩二を見て首を傾げる。
「そのなんとかパワァのせいで魚が大量にいたんだな? 」
浩二は自分の言葉に自分で納得した。エリトアは、そんなことかと思った。
「そのとおりです。エンライトメントパワァは生命の源ですから」
エリトアの答えを流して話を進める。
「魚たちがいなくなって、海が荒れ出したのもこの船のせいなんだろ? 」
エリトアも席に戻る。
「あれを見て」
モニタに、月を背にした膨大な数の宇宙船が映し出された。
「あれは、例の……」
何日か前にニュウスになっていた未確認浮遊物だ。
「やっぱり宇宙船だったのか……」
常にニコニコと笑顔を絶やさないエリトアも、深刻な顔をして頷いた。
「もう時間がないの」
そう呟いたエリトアの横顔は、浩二には今まで見たなによりも美しいと思えた。
「なにか方法は? その増幅装置ってのはもう使えないのか? 」
浩二には、まだ信じられないことばかりで、真実の検証が済んではいなかったが、プレオミスの変わりようと、エリトアの横顔を見ると黙ってはいられなかった。
「増幅装置は……使えなくはありません。ただ、オリスほどのエンライトメントパワァの出せる人は……」
エリトアはやはり悲し気な表情をしていた。
「だから、そのオリスって娘をずっと待ってるのか……」
浩二は少し考えてから勢いよく立ち上がった。
「話題を変えよう。エリトアの星のAIは、みんなそんなに性能がいいのか? 」
エリトアは、顔をあげて「ん? 」と云った。
「だから……そんなに、こう人間らしいというか……かわいらしいというか……」
恥ずかしそうに話す浩二を見てエリトアは笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます! 私たちAIは基本はコンピュゥタですから、感情はありません。それでも、地球のものと比べたら蟻と人ほど違います。それに加え、私はオリスのエンライトメントパワァを一億年間浴び続けてきましたから、性格の九十パァセント以上はオリスのものなんです。この姿もオリスをもとにしていますしね」
エリトアは得意げにドレスを両手で広げて見せた。
「なるほどな」
浩二は、エリトアが妙に人間臭い理由がわかったが、それは特にどうでもいい話だった。
「なんでホログラムのあんたに触れることができたんだ? 」
エリトアは、ニコニコと笑いながら浩二の方へ歩いた。
「そんな気がしただけです。少し脳を刺激すれば簡単にできることです」
エリトアは浩二の手をとって自分の胸に持っていく。浩二はドキドキしたが、手はすぅっと胸に入っていった。
浩二は、ドギマギしながら手をもとの場所へ引いた。
「それで、なぜ俺を迎え入れた? 」
浩二はもう一度最初の質問をした。
「それはあなたがセキュリティを越えてきたからです」
エリトアの回答は、どこかはぐらかしているように感じられた。
「じゃあなぜ、いろいろ秘密を話す? 」
浩二は、少しずつ核心に迫った。
エリトアは、また端まで歩くと窓に手を着いてみずいろの海中を眺める。しばらく黙ってから、意を決したように話をはじめた。
「実は……本当は、ハルタミナのセキュリティを越えて来られる人は二人だけなんです」
エリトアは窓に手を着いたまま振り返って浩二を見た。そして、また視線を窓の外へ戻した。
「ベガルファの王子だったアヤスサ様は、地球に降りてすぐにここへ来られました。私はまだ修復されていませんでしたが、アヤスサ様はセキュリティを設定していかれました。そして、見つけられないようにブラインドモォドに変換されていかれたのです」
エリトアは、そこまで話して今度は浩二の眼を見た。
「セキュリティをくぐることができるのは、アヤスサ様ご本人とオリスだけです」
浩二は、エリトアの言葉の意味がよくわからなかった。
「だから、じゃあなんで俺がくぐれたんだ? それを聞いてるんだよ」
アヤスサは、エリトアに浩二が記憶を取り戻すためのプログラムを用意させていたが、エリトアはそれを発動しなかった。ただ「あなたがアヤスサ様だからです」とだけ話した。
浩二は笑った。
「いくらなんでもそれはないだろ。地球人を導くために一億年も前からいるなら、こんな腐り切った生活してるもんかよ」
浩二はヒラヒラと手を振って否定した。エリトアは、なにも答えなかった。
しかし、それは理屈としてはあっていた。
一億年前からオリシアに好意を寄せていたアヤスサである浩二が、その九十パァセント以上がオリシアのエンライトメントパワァでできているエリトアに惹かれ、エリトアが浩二に惹かれる。
「思い出さなくたっていいんですよ。私たち、ずっとここに二人でいましょう? 」
エリトアは浩二の横に座り、そっともたれかかった。
浩二も、なにも云わずエリトアの肩を抱いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます