第17話

 備え付けの大きなモニタでは、討論形式のニュウス番組が流れていた。

「これらの未確認浮遊物といいますか、物体が、宇宙船団であるとの見方についてはどう思われますか? 」

 画面左の惚けたアナウンサが、右側の筑波宇宙大学教授と肩書された紳士に聞いた。

「ははは。それは有り得ませんよ」

 紳士は、最初に子供を笑うような嫌な笑いを入れてから、はっきりと云い切った。

「それはどうしてですか? 」

 アナウンサは台本通りの質問をする。

「なぜって、あなた、宇宙船ですよ? 」

 紳士は、もっと科学的な話をしようよと云わんばかりだった。

「しかし、他に云われているような、隕石群や、デブリの可能性も薄いと聞いていますが、それでは教授はこれらをいったいなんであるとお考えですか? 」

 アナウンサはテェブルに両手を重ねて、少し教授の方へ身体を傾けて聞いた。

「非常に難しい問題です。古今例のないことですから、慎重に調査を重ねるべき懸案といえますし、軽々しく見解を急いではならないと考えています」

 紳士は難しい顔をして、難しい言葉を選んだ。

「ようするに、わからんねんやろ? 」

 待合のシィトにだらし無く座ってそれを見ていた大輝は、偉い人はめんどくさいなと思った。

「ただ、宇宙船でないことだけは明らかですよ? 」

 教授はそう付け足して場を和ませた。

「宇宙船やのにな」

 大輝はまた呆れたように云った。

 案内掲示に、もう搭乗が可能になったことが表示され、その旨が放送でも流れた。

 勇気も大輝も荷物はほとんどなかった。愛だけが、大きなスゥツケェスを預けていた。

 三人はゆっくり立ち上がって搭乗口へ向かう。

「先生。本当に慰安旅行なんでしょうね? 」

 なにも聞かされていない愛は、もう何度も同じことを勇気に聞いた。

「そうだって。愛ちゃんには日頃、頑張ってもらってるからな」

 勇気も、もう何回か同じようなことを答えていた。

「だったらなんで大輝くんが一緒なんですか! 」

 愛は話している間にまた苛々してきた。

「俺達、気が合うんだよな」

 勇気は大輝をみてウインクした。

「そういうことじゃないでしょお! 」

 納得いかなさそうな愛に、大輝もこたえた。

「お姉ちゃん、買いもんしたら荷物もったるって」

 愛は今度は大輝を見て話た。

「大輝くん、そういうことじゃないの! この人はなんか企んでるのよ。大輝くんも酷いメに合うかもよ? 」

 大輝は必死に訴える愛をみて、いろいろ酷いメにあったんだろうなぁと思った。

「お姉ちゃんは、よっぽど勇気さんが好きやねんな」

 大輝は、なにも考えないで思ったままを口にした。

「ば、馬鹿! なにいってんのこの子は! 」

 愛は両手を突き出して顔を真っ赤にして慌て言い訳をはじめる。

 大輝は、それを遮って云った。

「なんやかんやゆぅていつも一緒におるもんなぁ」

 ムゥビングウォオクに流されながら、愛は上半身を屈めて大輝の眼をじっと見る。

「いい? 一緒にいるのは仕事だから! 」

 愛は、大輝にそれ以上なにも云うなと云わんばかりだったが、大輝はお構いなしに続けた。

「仕事で宇宙船さがしに? 」

 そう云って笑った。

 愛は、眼を丸くした。

「こら! 大輝! 」

 勇気は慌てて大輝の口を塞いで不自然な笑みを愛に向けた。

「ちょっと! 先生! やっぱり慰安旅行なんかじゃなかったんですね! どういうことなんですか! 」

 やいやいと文句を云う愛に、勇気はヘコヘコと弁解をしながら、搭乗口をくぐった。

 その姿を見て、大輝は「やっぱり仲いいやん。いい大人が中学生より子供っぽいな」と思った。

 相変わらずロレットからの返事はなかった。そういう人間臭いことにやっぱり興味がなかったからだ。

 大輝はそれでも、ロレットになにか返事をしてくれないかと求めた。

「お遊びなんだよ。ああやってじゃれあってお互いの気持ちを試してんのさ」

 ロレットの返事は至極冷たいものだった。

 それでも機内に入ると、ロレットが多少の興味を示しはじめた。

 CAの部屋を覗いたり、トイレに入ってみたり、コックピットを探したりした。

「すごいな。本当にこんな原始的なモノが飛ぶのか? 動力はなんだ? 」

 CAに席につくように注意されても、大輝の口を通してそんな質問をし、CAを困らせた。

 窓際から、大輝、愛、勇気と並んで座る。

 大輝は窓に張り付いて外ばかり見ている。ぶつぶつと、独り言のように興奮した様子でロレットと何か会話をしていた。

 離陸してしばらくすると機内食が配られ、愛の機嫌もよくなった。

 機内では、勇気は昼寝をし、愛は映画をみ、思いおもいの行動をしていた。

 大輝は、ずっと窓の外を見ていた。

「ベガルファのベオファイヤ級二番艦ベオラグナ。こんなくたびれた船が未だに現役なのも問題だな」

 ロレットは窓の外を見て大輝の口を借りて呟いた。

「なんにもないやん」

 大輝には雲しか見えない。

「見せてやろうか? 」

 ロレットは、自分の見ている景色を大輝の眼に映した。

 今まで雲海しか見えなかった窓の外に、何かものすごく大きな透明なモノが浮いてきて、やがてそれは大輝が漫画や映画で見たような葉巻型宇宙船に姿を変えた。

 しかし、それは想像を遥かに上回る大きさだった。飛行機の窓からは、離れていても端から端を捉えることができない。

「……! 」

 大輝は言葉を失う。

 傍目から大輝を見ていたら、まるで精神異常者のように見えるだろう。

 ロレットが前にでれば、冷静でクゥルに見え、大輝が前にでれば、無邪気で感情豊かに見える。

 その表情はまるで違う。

「私を、つまりおまえを護衛してるのさ」

 ロレットは大輝に説明をはじめた。

「一億年前は、遠心力で艦内の重力を作っていたが、今はどの船も牽引ビームが主流だ。この船にしたって中身は改修されている」

 大輝が聞きたいのはそこではなかったが、確かにそこにも興味がないわけではない。

「知ってるよ。おまえが一番知りたいのは武装なんだろ? 」

 ロレットは笑った。

 大輝は、中学生の癖に意外にも軍事オタクだった。昔から、武器という武器に眼がなかった。小さなナイフから軍事衛星まで、あらゆる武器に興味を惹かれた。

 勇気が居合の師範だと知ったときなんか、ときを忘れて刀を眺めていた。

「かわらないな」

 ロレットは、また笑った。

 そのとき、大輝の脳裏に、ある懐かしいシィンが浮かんだ。

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