第13話
オリシアは、地球の実相世界では男装し、レイル・ロレットと名乗る。すっかりエネルギィに近づきすぎてしまい、人間臭さを毛嫌いするようになっていた。
そのせいで、この一億年間一度も地上に転生しなかった。
あの出来事以来、ハルタミナとジィラに搭載された増幅型増幅装置は生産が禁止され、この一億年間一度も作られることはなかった。
この一億年の歳月が地球にもたらしたものは、オリシアが放ったエンライトメントパワァのバリアの消失と、リアルク協定を無効にする第二の方法である退化霊の自然憑依の増加による悪循環だった。
一億年前には、ほとんどなかった退化霊のたまり場は、長い歳月と人類の織り成す歴史の中で、実相四次世界に確固たるものを確立した。地球人が『地獄』と呼ぶ世界である。そこを足場として地上人類に取り憑き、ダァクソォウツを大量に生産し続けてきた。
今や、地球には、進歩と調和に生きる心安らかな魂は皆目見当たらなかった。
日本を中心に、ダァクソォウツが地球を覆い尽くしていた。
そもそも、大輝が八坂神社へお参りに行ったのは、その日に見た夢のせいだった。
まだ昼過ぎだというのに、外が急に真っ暗になった。
大輝たちは慌てて教室の窓から外を見る。空には、陽の光が入る隙間もないくらい、無数の宇宙船に敷き詰められていた。
たったそれだけの夢だった。
それでも、大輝にはとてもリアルに感じられたし、ものすごく恐ろしかった。
夢から覚めるとき、誰かがこう云ったのだ。
「自業自得だ」
と。
ベエタのミルキィウェイ艦隊にすれば、それは悲願の時だった。この一億年の間、何度も地球侵略を試みはした。だが、その度にオリシアのはったエンライトメントパワァのバリアによって、侵略の口実をつくることができなかった。
だからこそ、退化霊による自然憑依やウォオクインによって、長い年月をかけてダァクソォウツを増加させ続けてきたのだ。なにも知らない地球人は扱いやすかった。彼等にすれば、犬猫のように無知で原始的だったからだ。土地だったり、資源だったり、食料だったり、欲しいものを人数分用意しないだけで、すぐに争いをはじめる。また、ちょっと思想が違うだけでも殺しあいをはじめる。嫉妬を煽れば発展はとまる。面白いほど愚かな星民だった。侵略する前に滅ぶんじゃないかと心配したくらいだ。
今なら、誰に文句を云われることなく侵略することができる。
この一億年の間、ベエタの監視を怠らなかった義勇軍は、こうも考えた。
このままベエタに地球を侵略させるくらいなら、我々が先に地球に介入し地球人を導くべきではないかと。
しかし、それに反対したのはロレットだった。
ロレットは地球人を誰よりも信じ、誰よりも愛していた。エンライトメントパワァとなって、地球を一億年もの間、我が子のように守ってきた。たくさん寄り道をしながらも、ここまで成長してきた地球人を信じていたかった。
しかし、もう残された時間は僅かだった。
その日、朝からそのニュゥスで持ち切りだった。
月と地球の間に数千のなんらかの物体が群を成しているのが確認されたのだ。
しかし、それが隕石群なのか、宇宙ゴミなのか、どの望遠鏡でも観測できないという。それらは、不気味にそこにたたずんだまま、動く気配を見せないのだ。
確かにあるのに確認できない。
テレビに映る専門家はしたり顔で「宇宙ゴミだ」「隕石群だ」といろんな理由をつけて「たいしたことはない」と結論づける。もちろん政府の意向がそこにあるのが見てとれた。
また反対にゴシップは「宇宙船」「宇宙人」「侵略」と騒ぎ立てた。
この傾向はどこの国でも同じことだった。
アメリカやロシア、中国などでは、有人探索船を打ち上げて調べようという向きもあるにはあったが、危険だという理由で先送りになっていた。
そこには、NASAの存在があった。
NASAはことの次第をかろうじて理解していたようだ。
このことも、何日もして何も変化がなく報道されなくなったために誰の頭からも忘れさられた。
大輝は、夏休みを利用して勇気とともに海外旅行へでることとなった。
その日のために大輝は夕食の度に鍼灸院の話題を出し、そこの院長と仲良くなったことをアピールしていた。休みの日に家族と外出するときには、偶然を装って家族と勇気を会わせ、勇気の印象を上げるのに忙しかった。
夏休みに勇気とハワイへ行くと話したとき、両親は反対したが、勇気に対する警戒心からでなく、むしろ迷惑ではないかという配慮からだった。
そうなればもう大輝たちの思惑通りだった。
大輝たちは難無く日本をでることができた。目指すは太平洋に沈むハルタミナである。
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