第12話
オリスはダルマニオを連れてすぐさま艦橋を出た。
「ダル! ハルタミナに戻る! 」
ダルマニオは、オリスの言葉を聞いてすぐに小型艇の出せる格納庫へ向かう。ダルマニオは、オリスのベルトを掴み、物凄い勢いで引っ張った。
格納庫に着くと、すぐにアヤスサに連絡する。
「ハルタミナに戻ります! 小型艇をお借りします。ハルタミナの乗組員をシェルタァ船で外にだします。艦隊で護衛してください! 」
オリスの言葉の意味は、アヤスサにははっきりと理解できた。
「まて、はやまるな! 」
アヤスサの答えを聞かずオリスは回線を切った。
「この飛行機でもナミザさんと話せる? 」
コックピットに座ったオリシアはダルマニオに尋ねた。
「話せるように設定すれば」
簡潔な答えが返ってきた。ダルマニオは発進準備に忙しそうに、なにやらカチカチと次々にスイッチを入れていた。
「設定をお願いします! 」
オリシアはダルマニオにそう云った。
「艦長、第四ハッチが開きました。小型艇が出撃許可を求めています」
アヤスサは眼を閉じた。不思議と、オリシアの性格がよくわかる。なにを云っても無駄だろう。ならば祈る以外にない。
「……許可する」
ベガルファとプレタナス他、万を越える艦隊を指揮するのは、ベガルファの王であるアヤヌシだ。アヤヌシはアヤスサの父である。
ベオラグナは、アヤスサ配下の船であるため、ガルアランを目付け役として送りこんだ。しかし、アヤスサは、ベオラグナの後部にある四つシェルタァ船をいち早く切り離すと、単艦で艦隊を抜け、ジィラを追った。ガルアランがそれを止めることはなかった。
一方ハルタミナでは、オリシアの乗った小型艇を収容した。
オリシアはコックピットから飛び出した。クルクルと飛んで行かないように、ダルマニオが腰のベルトをしっかりと掴んでいた。
「王様! 」
カラドアが迎える。
「カラドアさん! すぐに総員をシェルタァ船へ! 急いで! 」
オリシアはそう云いながら、艦橋を目指した。
「王様! 」
カラドアは詳しく説明してくれと云わんばかりだった。
「それから! 私を王様と呼ぶのは条項違反ですよ。オリスで! 」
オリスはそう云って笑った。
ダルマニオに引っ張ってもらって、ハルタミナの艦橋へ入った。
ダルマニオは艦橋のあまりの広さと最新の設備に思わず声をあげた。
「すんげぇ! 」
オリスは、立ち上がる艦長が口を開く前に云った。
「戦時特例法の追加条項を確認してください。王様はダメ。オリスで。それからすぐに乗組員をシェルタァ船へ移動してください! 」
艦長以下、乗組員は戸惑った。
「お、オリス。まさか増幅装置を使う気では……」
艦長は、両手を震わせた。
「そうです! わかるでしょ? 時間がないの! 」
オリスは少し苛立ちをみせた。
「いけません! あなたがいなくなったら、残された一万のプレオミス人はどうするのです! 」
艦長の言葉に、オリスは冷静さを取り戻した。
「艦長、みんな、見てください」
オリスは正面の馬鹿でかいモニタに写る青い星を指さした。
「あの美しい星が、プレオミスのように真っ赤に染まるのを見たいですか? 」
みな俯いた。つい数カ月前、自分達の星を無くしたのは、みな同じだった。
「このハルタミナと、私にそれが止められるなら……」
艦橋に入ってきたカラドアがうしろから叫んだ。
「ならば私たちにもお供をさせてください! 」
艦橋内は、そうだそうだとみな口々にカラドアに賛同した。
「プレオミス人は、もう一万に満たないのですよ? あなたがたの誰一人かけることがあってはならないはずです! 私は、自分が王様だなんて思いもしなかったけど、今、王様としての責任を果たすチャンスをいただいたんです! あなたがたも、自分の責任を果たしてください! 」
オリスの言葉に、艦橋は沈黙した。
「総員、退避! 」
艦長は大声で命令した。
みんなが出ていくのを他人事のように見ているダルマニオに、オリスは云った。
「さぁ、ダルマニオも行って」
ダルマニオは眼を丸くした。
「ガンマニオでは主従は死ぬまで一緒だ。それにオリスは増幅装置を使えるのか? 」
ダルマニオの言葉に、オリスは戸惑った。
「どうするつもりだった? 」
ダルマニオはオリスを馬鹿にするように云った。
「……ごめんね」
オリスはダルマニオの手を掴んだ。
「ダラダラ長生きするより信念に基づいて死ぬ! いいじゃないか! 」
ダルマニオは笑った。
ベエタの異次間航行艦ジィラは、護衛の戦闘艦を十隻従えて艦隊を離れ地球へ進んだ。そのシルエットはワニのようだ。
これを確認したベガルファとプレタナスの義勇艦隊は、リアルクの協定に抵触するとして強い抗議を申し入れたが、実際はまだ抵触するには至らない。ベエタはそれを無視した。
単独先行してアヤスサのベオラグナがそれを追っていた。ベオラグナには、ベエタの別動隊十隻がコバンザメのように後についている。いつでも潰しにかかれるという意思を明らかに見てとれた。
やや遅れてハルタミナもジィラを追った。ハルタミナにもベエタの戦闘艦が十隻ついた。
地球時間では、今から一億年も前の話である。
突如、ジィラより救難信号が発せられ、操舵不能の旨が敵味方全艦に伝えられた。
オリシアは、ハルタミナのエンライトメントパワァ増幅装置の中枢に入った。そこはなにもない部屋だった。オレンジ色の間接照明だけが辺りを照らす。その真ん中に浮かび、何があっても穏やかな気持ちでいるようにダルマニオに云われた。
ダルマニオは、義勇軍にもベエタにも、自分はテロリストで、ハルタミナをジャックして単独で行動していると伝えた。ジィラを含め、全ての船に停船を求め、停まらない場合プレオミスの王の生命は保証できないと伝えた。
ベオラグナは、ただちに操舵不能のジィラを止める名目で、ジィラにさらに接近する。
ジィラと周辺の戦闘艦は止まる気配なく大気圏に近付く。
ダルマニオはいよいよ攻撃を開始した。
「おまえの火器の充実ぶりったらないな」
ダルマニオは満足そうにハルタミナのAIエリトアに話しかけた。
「ありがとうございます。実戦で使う日がこようとは思いませんでしたが」
「遠慮することはない。あいつらを蜂の巣にしてやれ! 」
ハルタミナの全砲門が開かれ、主砲からレィザァバルカンに至まで全ての火器が、ジィラを守るベエタの戦闘艦に向けて発射された。それは、ベガルファの一個大隊ほどの火力を有していた。
他に方法がなかったのか、ロレットは今でも振り返るときがある。
しかし、この作戦は、ジィラを破壊し、増幅したエンライトメントパワァを放出することが目的だ。
その意味で、もっとも犠牲の少ない作戦と云えた。
ハルタミナについていたベエタの戦闘艦とベオラグナについていたベエタの戦闘艦が、ハルタミナに攻撃を開始する。
ベオラグナは、ハルタミナと戦闘艦の間に、その大きな船体で割って入った。
「オリシア、実相世界で会おう! 」
アヤスサは叫んだ。
この戦いは、名目上、あくまでもテロリストダルマニオの搭乗するハルタミナのみが攻撃対象である。そのため、ベオラグナに迂闊に撃ち込むことはできなかった。
もちろん、実質はジイラのダァクソォウツ拡散を防ぐための義勇軍とベエタの戦いだった。
ベエタの艦隊は義勇艦隊に抗議するが、ベオラグナも操舵不能だと答えた。
ハルタミナはそのまま突進し、戦闘艦の壁をぶち破ると、ジィラに激突した。
まだ使える砲はすべてジィラに向けて放たれていた。
ジィラはやがて二つに折れて、ハルタミナはその真ん中を突き破って地球に降下していく。
オリシアは、増幅装置の中枢でうずくまって浮きながら眠り、夢を見ていた。
それは、一心に祈る夢だ。
「なにもいらない……みんなを護りたい……」
ハルタミナが海水面に突っ込むのと、エンライトメントパワァが放出されたのは、ほとんど同時だった。
黄金に輝く雲が、キラキラと地球を包んでいく。
「間にあった……」
アヤスサは作戦の成功にもかかわらず、落胆の色を隠せなかった。
「これで……一億年……」
その後、ベエタはプレオミスを侵略したことがリアルク協定違反であると起訴されたが、法廷では、ベエタが侵略したころには、プレオミスは調和をかいた悪しき星であったと主張し、証拠不十分となった。
そして、一億年の歳月が流れた。
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