第4話 山道は雨が降り始めている

「──違います、悪戯じゃないですって! 交番に持って行きますから見てください! あっ」



 久地石さんがスマホを耳から離し、呆然と見つめた。



「駄目だ。悪戯だと思って相手にしてくれない」


「久地石さん、お兄ちゃんどこにいるの!?」


「わからない……まさか!」



 今度はお兄ちゃんのスマホをじっと見つめる。



「同じように通報して、相手にされなくて、なんとかしようと山荘に向かったんじゃ……」


「え!?」


「もしメールを読んだなら、住所は知ってる」


「そんな……!」



 お兄ちゃんが、殺人鬼のいる山荘にひとりで!?


 

「ルコ、俺は念のため様子を見に行く」


「危ないよ!」


「でも日上沢が危ない状況にあったら、警察は信じてくれませんでしたーじゃ済まなくなる。大人が数人がかりで通報すれば警察も動くはずだ。この動画をお母さんにも見せて、通報してもらってほしい」


「私も行く!」



 久地石さんの言う事は正論だけど、そんな時間はない。



「お母さん、日勤からの夜勤で明日の昼まで帰って来ないんです。救急センターのオペ室担当だから、病院に電話してもすぐ繋いでもらえないし。休憩は寝てるし。お兄ちゃんがいないならいないで、帰って来ればいいだけなんですよね? 私も連れて行ってください!」



 こうして私は、久地石さんの手配したレンタカーであの山荘へ向かった。


 

「けっこう深く見えるけど、まだ関東だから。眠かったら寝ててもいいよ」


「眠くないです……」



 助手席から眺める景色は、夜の山道。

 ライトが照らす範囲でさえ、木々が生い茂っている。



「……」



 お兄ちゃん、無事でいて……!

 

 どうか、取り越し苦労になりますように……!



「あ……」



 ガラスに、ぼたんと大粒の雨が落ちて来た。



「降ってきたな」


「……」



 雨はすぐに激しくなって、視界を一層、悪くした。

 

 曲がりくねる道を、他の車も見かけないまま久地石さんは丁寧に運転している。一本道だし、住所はわかっているのだから、暗くても迷う心配はないはずだ。



「もうすぐ着くよ」



 お兄ちゃんより、ずっとしっかりしている。

 お兄ちゃんが久地石さんに動画の件を相談したのも、納得だ。


 久地石さんがいてくれてよかった。


 私は膝に置いたビデオカメラをぎゅっと掴んだ。

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