第3話 メールには返信が求められている

日上沢ひかみざわ? なに、いるの? 彼女?」


「……」



 お兄ちゃんの、友達?



「メール返事ないんだけど。急ぎっつったのに連絡ないし、心配だから来てみたんだけど」



 私はチェーンをかけた状態で、そっと扉を開けた。



「あ」



 びくびくして上目遣いで見あげる私に、その人は少し驚いた顔で声を洩らした。



「妹ですけど」


「ああ、妹さん」


「お兄ちゃんに用ですか?」



 

久地石くちいしが来たって伝えてくれる? 体調悪いなら出直すけど、急ぎみたいだったから」


「お兄ちゃん、いません」


「え?」



 そのとき、流しっぱなしの動画から女性の悲鳴が轟いた。



《きゃああぁぁッ! いやっ、嫌あぁぁぁッ!!》


「映画見てるの?」



 ……やだ。

 なにが起きてるの?



「……お兄ちゃんには、伝えておきます」


「留守番、邪魔してゴメンね? じゃあ、山荘の住所メールしてあるから」


「えっ?」



 山荘?


 山荘って、あの写真立ての? 

 あの不気味な動画の?



「あっ、あの……本当にお兄ちゃんの友達なんですか?」


「え? うん。……ほら」



 スマホの画像を見せてくれた。

 お兄ちゃんを含む数人で、楽しそうにキャンプしている。



「大学のサークル。妹さんなら、ルコちゃんだよね?」


「そうです……疑ってすみません」


「いいよ。用心深いのは、女の子なら当然。偉い偉い」



 久地石さんは、お兄ちゃんの数倍は頼もしい笑顔で褒めてくれた。

 


《やめ……ぐがっ、あ゛ッ、がはっ》


「けっこうグロいの見てるね。大丈夫?」



 限界だった。

 お兄ちゃんはいないし、動画は恐いし。


 それに、山荘の住所を調べていたっていう事は、あの動画の事を調べていたという事だ。



「久地石さん……山荘の、動画なんです……」


「え?」



 顔色が変わった。

 久地石さんは真顔でチェーンを見遣り、私もすぐそれを外す。


 室内に入ってくると、久地石さんはテレビ画面を見て足を止めた。



「なんだ、これ……!」


「……っ!」



 私は思わず、口を押えた。


 血塗れの女性が鎖で両手を拘束されて、ぐったりしている。



「見るな、ルコ!」


「!」



 そう。

 見るべきじゃなかった。

 

 目を閉じたけど、もう遅い。


 瞼の裏側には、体を切り裂かれた女性の死体がしっかり焼き付いている。



「山荘……まさか、例の山荘で、殺人……?」



 久地石さんがスマホを操作している。

 


 ブゥーーーーー……



「……え?」



 目を開けると、久地石さんがベッドの枕を持ち上げたところだった。



「スマホ、置いて行ってる」


「ええっ?」


「……駄目だ。ロックが掛かってて、見れない」


「貸して!」



 久地石さんからお兄ちゃんのスマホを受取って、心当たりのある数字を打ち込んでいく。



「違う……違う……っ、これも違う!」



《ハッピーバースデー、トゥーユー♪ ハッピーバースデー……》



 あのバーベキューをしていた男性だろうか。歌っている。

 撮影が下手で、床とテーブルがブレブレだ。

 でも、少しずつアングルが定まっていく。


 テーブル。


 誕生日っぽいご馳走。


 だからたぶん、主役の前には、ホールケーキのはず。



「……」



 だけど。


 だけど……!



「ひっ!」



 ピンク色のホールケーキに、人間の指が5本、蝋燭の代わりに刺さってる!

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