第2話 私は不気味な動画を見ている

「ひっ」



 後ろに飛び退いた拍子に、ビデオカメラがゴトンと落ちた。


 4倍速の動画からはめきめきと人間の指が生えてくる。

 5本生え揃って、掌まで生えて、手首まで伸びて、それから脈の辺りにもう1本指が生えてきた。



「うわ、キッモ……!」



 お兄ちゃん、悪趣味すぎる。

 まだエッチなビデオのほうがよかった。


 思わず目を逸らす。

 ベランダの洗濯物が揺れる。とりあえず、あれを入れよう。


 窓を開けて、洗濯物を取り込んでカーテンレールにひっかける。



《フハハハハハハッ!!!》


「!?」



 急に笑い声がして、びっくりしてテレビを見てしまった。


 今度は頭が禿げて耳の上だけもじゃもじゃの白髪がある男性が、庭みたいなところでバーベキューしている。4倍速だから、職人技みたいな超高速で肉をひっくり返しながら笑っている。



「もう、やだぁ……!」



 悪趣味にもほどがある。

 家賃よりお兄ちゃんの頭のほうが問題だ。


 テレビを消して、ビデオカメラの傍にへたりと座り込む。


 心臓が爆発しそうで、汗だくだ。

 ビデオカメラも停止しよう。そう思って、私は重たくて古いビデオカメラを再び両手で持ち上げた。



 ──コトン。



「!?」



 小さな物音に、びくりと跳ねる。



「……なんだ、写真か」



 窓を開けっぱなしにしたせいで、風が吹き込んで、カラーボックスの上の写真立てが倒れただけみたいだ。10月も半ばになって寒暖差が激しいし、私は這って窓を閉めた。それから写真立てを元に戻す。



「……家?」



 実家うちじゃない。

 田舎……? っていうか、山小屋みたいな感じ。


 アウトドアな人じゃないのに。

 4年の大学生活で変わっちゃったのかな。ソロキャンとか流行ってるみたいだし、別にアウトドア派になるならなるでいいんだけど……



「……バーベキュー」



 私はもう一度、ビデオカメラを手に取った。

 4倍速から通常速度に戻して、テレビをつける。



《ハッハッハッハッハ。美味そうだろ?》


《うん! いい匂い!》



 子供の声。

 この動画を撮っているのは、子供って事?



「これが庭で……あの家に住んでるんだよね……?」



 で、人間の手が生えるタンブラーを撮影したと。



「お兄ちゃん、どういう事なの……!?」



 ドンドンドン!!



「きゃあっ! 今度はなにッ!?」



 ドンドンドン!!


 玄関を叩く音だ。

 誰か来た。

 大家さん!?



「います! います!!」



 私は半泣きになって玄関に走り、ドアスコープから外を確認した。



「……」



 お兄ちゃんと同年代の男性が立っていた。

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