第5話 山荘には絶望が待っている
「着いたよ」
山荘の前で車を停め、久地石さんが私のほうを向いた。
「どうする? 車で待っててもいいよ」
「い、きます……」
山荘は、どの窓からも灯りが洩れたりしていない。
ただ雷が凄くて、稲光でその聳え立つ姿が見えているだけだ。
車を出て、まず、私は叫んだ。
「お兄ちゃぁぁぁああああん!!」
雷には負けない。
豪雨にも負けない。
「いたら返事してぇぇぇぇぇっ!! お兄ちゃぁぁぁぁああんッ!!」
「日上沢! いるか! いたら返事しろ!!」
「お兄ちゃぁぁぁぁあん!!」
息が切れた。
肩を揺らして雨を浴びていると、久地石さんが玄関のほうにずんずんと歩いて行ってしまった。
「……!」
さすがに、足が竦んだ。
だけど、もし本当にここで殺人が起きていたなら、私と久地石さんもスマホで撮影して、証拠として交番に届けようという話になっていた。
その時、お兄ちゃんの捜索願も。
久地石さんの後を追って玄関の浅い階段をあがる。久地石さんは玄関ポーチの椅子を傾け、その脚の下から鍵を見つけたところだった。
「ルコ、入ってみよう」
「うん」
私たちは中に入った。
久地石さんが壁を探り、照明をつける。
「……」
雰囲気のいい、雑誌に載りそうな普通の山荘だ。
すぐそこにキッチンがあり、そのテーブルに見覚えがあった。動画の中で指入りのケーキがあった場所。
息がふるえる。
「日上沢!」
「!?」
久地石さんの声に振り向くと、奥へ進み次々に照明をつけながらお兄ちゃんを呼んでいるだけだった。見つけたわけではないようだ。
「日上沢! 日上沢!?」
「……」
随分、大胆に探している。
急に恐ろしい事が思い浮かび、私は息を止めた。
「日上沢! 日上沢! 日上沢! 日上沢!」
「……」
スマホでお母さんに電話をかけて、留守電にそっと、小声で吹き込む。──通報して。助けに来て。
キッチンと直結してリビングがあった。
リビングにはテレビがあった。
私はビデオカメラをテレビに繋いだ。
そして、音を消して、4倍速で再生した。
「……」
「日上沢! いないのか!? いたら返事してくれ!」
「……」
「声を出せないなら物音を立ててくれ!」
「……」
「ルコと迎えに来た! もう大丈夫だ!」
久地石さん、全部、事情を知っていた。
ここまですんなり連れて来てくれた。
通報だって、久地石さんがした。
でも本当に電話をかけたのかどうか私にはわからない。
鍵も見つけた。
電気もつけた。
「ルコ。なんだ、見てたのか」
「……」
背後から久地石さんの声がした。
私は出来るだけ平静を装って、画面を見つめ続けた。
「……ルコ?」
ハッピーバースデー、ディア……やっくん。
気持ちの悪いケーキが映ったこの場面、子供はやっくんと呼ばれていた。
「久地石さん、下の名前……なんていうんですか?」
返事がない。
恐る恐る振り返ると、すぐ傍で久地石さんが笑っていた。
「!」
稲光が、異様に照らす。
「
「……」
そして、低い声で言った。
「バレちゃった」
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