第6話 コロンバイン(オダマキ)の、花言葉は?ダンバインでは、ありません!

 「お届け物です!」

 休日で、昼近くまで寝ていた彼にとっては、良き目覚ましの、襲来となった。

 「助かった」

 彼は、心底、そう思っていた。

 社会人になってからは、朝、彼を起こしてくれる人がいなくなっていたからだ。学生時代は、誰かが起こしてくれた。スマホが鳴って、出れば、ゼミ仲間の声がしたものだ。

 「おーい。起きろー。大学にいく時間だ」

 そんな愛のアラームが、懐かしかった。

 「何、これ?」

 宅配されたのは、鉢に入れられた、白い花だった。

 「あの人なら、絶対、知っているだろう」

 リー社員まで、写メールを送った。

 「この花、何?」

 すぐに、返事がきた。

 「ちょっと!どうして、緊急連絡用の社員間メルアドを、悪用するんですか!何です、コレ。しかも、休日だっていうのに」

 また、怒られてしまった。

 だが、そうはいっても、彼女は大人。やや面倒に思いながらも、丁寧に、教えてくれたのだった。

 「その花は、オダマキっていうんですよ」

 「…おだ、まき。女の子みたい」

 「お黙り!」

 「ぎゃっ」

 「オダマキ、です。コロンバインとも、いうんですけれどね」

 「ダンバイン?」

 「やめてください。コロンバインですよ」

 「ダンバインじゃあ、ないんだ」

 「…もう!コ、ロ、ン、バ、イ、ン、ですよ。まったく…。春に咲く、宿根草です。今は、春。良い季節に、届きましたね。まあ、もう、ほぼほぼ、夏なんですけれどね」

 「ふうん」

 「ダンバインなんて、良く、知っていましたね。その年で」

 「20歳過ぎれば、皆、おじさん」

 「…そうですか」

 「あんたなんか、ハイパーおばさん」

 「黙れ!」

 「ちぇっ」

 「昔のあれ、良く、知っていましたね」

 「会社のパソコンで、観ていたんだよね」 

 「仕事を、してください」

 「良いじゃないか。俺たち、新卒だよ?」

 「…」

 「定年退職世代のおじさんたちも、ネットサーフィンを、やってたじゃないか。それで、金もらってたし」

 「あの人たちとは、身分が違います」

 「…へえ、へえ」

 「…」

 「あのおじさんたちが、うらやましいの?」

 「…ええ、まあ」

 「だよなあ。仕事しなくても、金がもらえるんだものなあ。しかも、適当に、ランクがアップしていく。年功序列って、いうんだよ?」

 「知っています」

 「鬼畜なことをしても、途中でゲームオーバーにはならない。終身雇用って、いうんだね」

 「それも、知っています」

 「へえ、へえ」

 「…」

 「俺たち新卒も、それに近いんだよね」

 「…」

 「俺たち新卒が、うらやましい?みたいな」

 「それで…、コロンバインのこと、わかってもらえましたか?」

 「おお。話を、変えられたか!」

 「…あの、うつむくようなあの花の姿が、かわいいものでしょう?」

 「…そうっすかねえ?俺には、コレ、カブトムシの姿には見えないんだけれどなあ」

 「だから、コロンバインって、言っているでしょう?」

 「ダンバ…」

 「そこ、黙ってください!」

 「ぎゃっ!」

 リー社員は、怒りで対応していた一方で、羨望の目を向けていた。

 新卒者の身分が、とってもとっても、うらやましくあった。

 「新卒って、心配してもらえるんだな。何だか良くわからないけれども、良いな…」

 彼には、何のことやら、不穏だった。 

 「それで、その花を贈られて、何がうらやましいの?」

 「タメ口、叩かないでください」

 「良いじゃないか」

 「そういうの、良くないと思います」

 「…俺、新卒だよ?そっちは、既卒っていう生き物でしょ?身分、違うでしょ」

 「良いなあ、新卒…」

 「うらやましい?氷河期っていたっけ?」

 「で、何で、うらやましいの?」

 「…そりゃあ、心配してくれる人が、いたからですよ」

 「そう?これ、教授からだったよね?気がかりなのは、俺じゃあないと、思うけれど。男が男に、気がかりになるか?っていうかさあ、俺、国で最大級身分の、新卒なんだよ?」

 「…あのですね?」

 「何だよ、氷河すまんくす」

 「…まったく」

 「だから、何?」

 「贈られてきたのは、白のオダマキの花なんですよね?」

 「うん」

 「…」

 「だから?」

 「ですからね。オダマキにもいくつか種類があるんですけれど、白のオダマキには、勝利を手にするっていう花言葉が、あるんですよ」

 「おお!」

 「それから、あの人のことが気がかりっていう花言葉がも、ありますけれどね」

 「え?マジで?」

 「そうですよ」

 「あの人って、誰?」

 「そんなことは、私には、わかりません」

 「あっ、そう」

 そこで、通話を終えた。

 リー社員はといえば、切られた通話の向こう側で、考え中だった。

 「でも、どうして、オダマキ?」

 オダマキのその花言葉は、どちらかといえば、ロマンを追い求めるような男性を陰ながら支える女性からのものであるべき、だったからだ。教授は、なぜ、トキオ相手にオダマキの花を贈ったと、いうのだろうか?

 今度は、リー社員のほうから、彼に連絡を入れていた。

 「何?」

 「…私、言い忘れていました。ひどいですよ」

 「何が?」

 「ひどいじゃ、ないですか。急に、電話してきて。まあ、この電話は、私からですけれどね。…ひどいですよ。休みの日に、どうして急に、私用電話を入れてきたんです?」

 「それは、ペコリ」

 「これまでだって、私たちのほとんどは、そちらの人たちのおかげで、ひどい思いをさせられてきたわけなんですからね」

 「ちぇっ。それとこれとは、話が違うじゃないかよう」

 「そうでしたね。では明日、会社で会いましょう」

  翌日。

 「イテテ」

 彼は、また、自分の尻をさすっていた。リー社員は、そこで、こんな面白いことを言っていた。









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