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「これでなんとか、当面はやっていけそうかな?」
トライメリアーナ──トーランお姉さまはとぼけた顔でポーラに云った。久しぶりに会った彼女は、以前よりもさらに大人びて逞しい立ち姿だった。ポーラはお姉さまにちょっと近づいた気でいた数日前の自分を恥ずかしく思った。
「それにしてもポーラはよく頑張ったじゃない。だれからも教えられていないのに、魔法を使えるようになったんでしょう?」
「違うわ。テオンがいなければわからなかったわよ」
「そのテオンっていうひととも会いたかったのだけど……帝国に行っちゃったんでしょう?」
テオンはあれから、船で帝国に向かったのだ。生き別れた妻子に会いに行くのだと云っていた。それに、かれのもうひとつの故郷でもあるのだ。きっと挨拶に行きたいところもたくさんあるのだろう。
テオンがいつ帰ってくるのか、ポーラは知らされていない。きっとテオン自身もわかっていないのだと思う。でもそれでいい。きっとなるようになるだろう。逃げた先に自由はないけれど、逃げずに立ち向かった先に得た自由をテオンも享受する権利がある。
テオンの娘の名前は、ポーラだ。北極星と同じ名前。
かつてテオンから北極星の名前を教えてもらったときのことを思い出す。あのときのテオンの態度。きっとかれは星空を見る度に家族のことを思っていたのだろう。今ならかれの気持ちがよくわかる。かれの悲しみも祈りも。
ポーラとテオンが出会ったのも、あるいは運命づけられたものなのかもしれない。自分たちよりも上位のだれかによって。星々によって。
「ねぇお姉さま」
「なに?」
「しばらくはイストラリアンにいるんでしょう?」
「そうね。あいつの面倒を見なきゃいけないから」
トーランは笑いながら云う。
「じゃあさ。お姉さまの知っていることを教えて。勉強のことも。この世界のことも」
「魔法のことも?」
「……うん」
「じゃあまずは……」
ポーラにはひとつ確信がある。
きっとテオンは帰ってくることだろう。この海峡の小さな国に。
そしてまた例の偏屈な調子で星のことをぽつりぽつりと喋ってくれるだろう。
そのときまでにわたしもちょっとは前に進んでおこう。そう思う。
「まずは編まれた星の話から始めようか」
──第三部「編まれた星々」完
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