第20話
狡い!狡いわ!ポイントを抑えつつ効果覿面な攻撃を仕掛けてくるなんて!
さっきから私はジェットコースターの様に気持ちが上がったり下がったりと・・・血圧が心配よ。
どんなにもがいてもクリスから離れることは叶わず、取り敢えず膝の上で大人しくすることにした。
「ねぇ、アディ、怒ってる?」
ムッとした様にそっぽを向く私に、上目遣いでおずおずと聞いてくる。
くっそ、年上のくせに可愛いなっ!私の知らないクリスが一杯じゃないのよ!
でも、それと同じ位ムカムカする。
女の扱いに長けてる所為だと分かっているんだけど、別に自分には関係ない話だわ。
だってクリスは王族だもの。色んな令嬢と交流があるのだから、慣れていて当然よね。
なのに何でイライラするのかしら・・・・
クリスの事を恋愛的に好きと言うわけではないから、それに対しての嫉妬と言うわけではないと・・・思う。
ただ・・・彼が女の扱いに慣れているという事にムカついているのよ!
クリスにドギマギさせられるのが気に入らないのよ!
今世の私がもっと男性と交流があれば・・・・そうすればクリスの立ち振る舞い、一挙一動から目が離せなくなるような事なんてなかったのに!
私を膝に乗せ、何かと機嫌を取ってくるクリス。
「なんか、慣れているのね」
唐突な私の言葉にクリスは虚を突かれた様に目を見開き、そして破顔。
「嫉妬してくれたの?」
「はぁ?!なわけないじゃない!・・・・ただ、先を越されたみたいで腹が立つのよ」
「先を越された?」
「そうよ。私だって沢山の男性と交流していれば、こんなにドキドキなんてしないもの!」
「沢山の・・・男性?」
クリスの眉がピクリと不機嫌そうに上がった事に気付きもせず、私は叫んだ。
「そうよ!今の今まで自分の事で手一杯だったから、男性経験が皆無なのよ!」
言い方が何となく厭らしいが、性的関係を言っているわけではないのよ!所謂、お付き合いよ、お付き合い。それが今世では皆無なわけ!
前世ではまぁ、お付き合いしたり半同棲なんかもしたわね。社会人だったし。
でも、此処では前世と違って自由恋愛がちょいと難しい。
貴族間でも、大分恋愛結婚が当たり前になってきたところがあるけど、下位貴族がほとんど。
王家はもとより、上位貴族なんかはやはり政略結婚が今だ大半を占めている。
そのせいか、うちの侯爵様とお母様の恋愛顛末は物語のようだと未だに語られていて、今度お芝居として王都で上演される事になっている。
まぁ、良いとこ取りの物語だから、私の苦悩なんてこれっぽっちも語られていないけどね。
だから今回のレオンの婚約は、本当に運が良かったのよ。
ウェイバー伯爵家は由緒正しく、人格者を多く輩出している。
本来であれば侯爵家に爵位を上げてもいいくらい王家に、この国に貢献しているのだけれど、出世欲に興味がない事でも有名。
だから、伯爵ではあるけれど侯爵位と同じ扱いになっているの。
伯爵と言う位の中でも、色々序列があるのよ。ウェイバー伯爵家だからこそすんなり婚約が認められたと言っても過言ではないわ。
つまり何が言いたいのかというと、高位貴族になればなるほど前世感覚で男性と付き合えないという事。
でも、平民になればそこそこ前世に近い生活になるから、ある程度恋愛も自由になるのよ。
まぁ、私の場合は貴族を辞めた後の準備で必死だったから、余り周りに目を向けていなかったってのもあるんだけど。
で、やっと周りを見渡せる余裕が出来たと思ったら・・・ライトがクリスだったのよね・・・
そんな事を思いながら溜息を吐けば、先ほどとは比較にならないくらいの地を這う様な、低い低い声で名前を呼ばれた。
「なに・・・ひっ!」
クリスの顔を見て思わず、小さな悲鳴の様なものが漏れてしまった。
「どうしたの?そんな怯えた顔をして」
そう言いながらにっこり微笑んでいるクリス。・・・・笑顔が怖いって、初めて見た・・・やだ、怖いっ!!
何とかクリスから離れようともがくけれど、男の力に敵うはずもなく腰に巻き付いている腕に更に力が入り、空いている手でやんわりと頬を撫でられた。
・・・・何、この展開!目・・目が・・・こわっ!!顔、近っ!!
「ねぇ、アディ。男性経験って、何?」
「え?えっと・・・」
ただ、頬に手を添えられているだけなのに、視線すら逸らす事が出来ない。
「アディはそんなに男性経験がしたかったの?」
「いや・・・別に・・・」
普通に青い春をしたかっただけで(つまりは甘酸っぱい青春をね!)男と寝たかったわけではない!
何を勘違いしてるんだかわかんないけど、何で一方的に私が責められてるわけ!??理不尽よ!
段々ムカついてきたわ!肉体年齢は私が下だけど、精神年齢は私が遙かに上じゃない!
「何を想像してるのかわかんないけど、なんで私がクリスに責められなきゃいけないのよ!」
頬を撫でていた手を外しながら、ギンッと睨み付けた。・・・・そう、不細工に見えようが何しようが関係ないわ!
渾身の怒りを目力に変えてクリスを睨んだのだけれど、何故か彼は私の頬に添えていた手で己の口元を覆うと、そのまま天を仰いだ。
そして私をギュッと抱きしめ、その胸に顔を押しつける形になる。
・・・・な、何なの!?
益々身動きが取れなくなって混乱していると、もの凄い速さでリズムを刻むクリスの心音が耳に頬に、強く強く伝わってくる。
・・・大丈夫かしら・・・と、急に彼の身体の事が心配になり、胸にもたれかかる様に耳を寄せ、大人しく抱きしめられたままでいる事にした。
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