第19話

容姿は全く違うのに、ライトにしか見えないクリス・・・

それもそのはず。仕草や言葉使いがライトそのものだったから。


「俺も自分にこんな一面があったなんて、自分で自分にびっくりしてるくらいだ」

と言うほど、二人(?)の性格は違っていた。クリスは身分もあったと思うけど、かなり慎重派。でもライトは豪胆で行動的。

でも私に言わせれば、クリスがライトになった所為で、飼いならされていた獣が本能に目覚め爆走しいている・・・みたいな感じ?

ライトだった時の彼が素なのだろうか・・・と、似ても似つかない二人なだけに不思議でしょうがない。


「・・・クリス、随分と雰囲気が変わったわ・・・・二重人格?」

「失礼だなぁ」そう笑いながら、私の指を撫でてくる。主に、左手薬指を・・・・

「俺が学んでいるこの国の帝王学は世界最強とも言われていてね、他国のものとは一線を画しているんだ」

他国では、机上の学びがほとんどで、世間知らずで理想だけが膨らみ己の立場を理解できず、今ある地位に酔いしれ勘違いする王子王女が育つ事が間々あった。

概ねそう言う輩は何かしら問題を起こしたりしている。

昔はこの国も同じような教育方針だったのだが、過去数代ほど続いてロクデナシが出来上がってしまい教育方針を変えたのだそうだ。

室内での学びも大事だが自主性を重んじ、自分の学びたい事、やりたい事を優先的に学ばせると。勿論、結果が伴わなければ辞めさせられてしまうのだが。

「商会立ち上げも、切っ掛けはアディを養う事だったけど、市井の人々の生活だとか経済の流れだとか、直に見て感じる事が出来てとても有意義だったよ」

そう語るクリスの顔はこれまでの事を思い出しているのか、とても穏やか。

「それに、市井で働くアディを近くで見る事が出来るし、王宮や侯爵家で会っている時のアディと違う姿が見れてとても幸せだった」

それはそうよ。前世丸出しで働いてたんだから。それに・・・

「ライトがいつも親身になって相談に乗ってくれたし、無理なお願いも嫌な顔一つせず叶えてくれたから。とても仕事がし易くなったし・・・信頼していたのよ」

いずれは平民になって商売するんだから、色んな人との繋がりも必要だったしね。

前途有望な商会との繋がりもまた、私にとっては必要不可欠だったのよ。そして、幸いな事に担当してくれた人が私と超馬が合って喜んでたのに。

実はクリスだったなんて、かなり残念だわ・・・まぁ、彼にとっては帝王学の一環だったって事なのね。


「ねぇ、アディ。アディってライトが好みだよね?」

「え゛っ?!」

突然、何をっ!!思わず蛙が潰れた様な声が出てしまった。

「アディって普段は澄ましていることが多いけど、市井では表情が豊かですぐ顔に出るだろ?最初の頃は警戒されていたけど、年を追うごとに好意が滲み出てきていたからね」

ちょっと!私そんなにわかりやすかったの!?ヤダちょっと、気を抜きすぎていた??恥ずかしい!!

きっと私の顔は真っ赤ね・・・手で顔を隠したいけど、いつの間にかクリスに両手を握られていて、引っ張っても何しても離してくれない。

そんな私を見て、本当に嬉しそうに頬を緩めるクリス。

「俺はアディを愛している。でも、アディはクリスではなくライトを選んだ」

「いや・・選んだと言うより、憧れていたというか・・・・」

今の所、誰とも結婚するつもりはないし。

「うん。でもライトはクリスでもあるから、僕を選んでくれたと思ってもいいのかな?」

なっ・・・今度は『僕』?ヤダもう!ドキドキしちゃう!!

「私は誰とも結婚しないわ!」

「でも、ライトが平民だったら考えていただろ?」

「うっ・・・それは・・・」

「なら、僕でもいいよね?平民になれば」

「何を!駄目だってば!クリスは勿体ない!国王になるべきよ!」

「なら尚更、僕を選んでよ。パン屋も続けてもいい。今みたいにほぼ毎日と言うわけにはいかないけれど、アディがいない時の為に人を派遣するよ」

「え?何言ってんの?次期国王に嫁ぐわけないでしょ?」

「じゃあ、僕が平民になるよ」

「いや、だからそれは駄目だって」


・・・・一体何なの・・この堂々巡りの会話は・・・埒が明かないわ。

私と結婚するために『次期国王』を人質にとって脅してきてるわ・・・

これは、もう国外逃亡?

そんな事を考えた瞬間、クリスに両手を引っ張られその胸に抱き込まれた。そして、今まで聞いた事の無い、低い低い声で耳元で囁かれた。

「アディ、私から逃げようとしたって無駄だ」

正に為政者としての威厳を知らしめるかのような囁きに、私の肌は粟立つ。

そして、いつの間にかクリスの膝の上に抱き上げられ、ギュッと抱きしめられていた。


なにこれ!クリスってば手慣れてる!?

アワアワしつつもそんな事が頭を過る。

長い間一緒にいたけれど、女の影なんて無かったと思う・・・多分。

でも、ココってところで効果的に攻めてくるこの感じ。やはりて慣れてるのでは・・・

まぁ、王族だし年齢も年齢だから閨房術も実践してるだろうけど。


そこまで考えて、なんだかイラッとした。

何だろう、ムカついてもきたわ・・・

理由が分からず胸のあたりがモヤモヤチクチクし始め、クリスの胸から顔を上げると彼の頬をおもいっきり抓んだ。

「・・・・いひゃい・・・・」

そう言いながらクリスは怒るわけでもなく、そっと私の手を外した。

そして私の指先に口付けると「怒ってる?」と、先ほどまでの強気は成りを潜め縋る様に見つめてきて、不覚にも心臓が高鳴る。


―――その顔、狡いわっ!!


と、振り回されている事にすら気付かない馬鹿な私。

そして、こう言うのを『腹黒』と呼ぶのだという事を、その時の私は知る由もなかった。

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