第11話
クリスのその堂々とした振る舞いは、正に王族。
私の前では、顔が良いだけのおちゃらけたお兄さんを演じているけど、本当はとても優秀で恐らく彼が王太子になるだろうと言われている。
でも、クリスもレオンも積極的に王太子になろうとは思っていないみたい。というか、互いに「お前がなれ!」みたいに譲り合っている。本当、仲良いわ。
凛々しいクリスに、本来であればラブラブ光線出しながら見惚れているんだろうけど、今はそんな余裕なんて全く無いピンク頭。
容赦なく攻め込んでくるクリスに、つい気の毒に思っちゃうほど顔面蒼白よ。
「何故、妄想癖と呼ばれるか・・・まず、教科書の問題だが、その日はアデリーヌ嬢は登校していない」
「え?」
「その日、彼女は王宮に来ていたのだから」
「え、え?」
「貴族の間では皆、周知している事だが、君は知らなかったのかな?」
何を言われているのか分からないピンク頭は、ただ「え?」しか言わない。
ほら私、頻繁に王宮に呼ばれてるでしょ?今では月二回なんだけど、日にちを決められているの。
ちょっと前までは謁見の間なる仰々しい所で「そろそろ~」と、いつものフレーズを言われてたんだけど、最近はお茶会スタイルに変更されたわ。
国王夫妻と王子達との茶会という名の面談。偶に貴族少々が集まる為、予定をあらかじめ決めておかないといけないのよ。
正直、私にとっては迷惑だし、何の意味があるかわからない茶会なんて、早く無くなって欲しいと思ってたわ。でも、今回はそれに助けられたのよね。ちょっと、複雑。
私が王宮に行くときに集まる貴族達は、前以て申請を出してその中から選ばれているの。
何度も言うけれど、私にとっては傍迷惑な茶会だけど、他の人達にとっては違うみたい。
その理由として、貴族間でよく行われているお茶会や夜会、王宮での舞踏会等々・・・わたくし、一切参加しないから。
だから、貴族の間ではこの茶会は私に会える唯一の催しだと結構、重要視されているみたいなのよね。
何故そんなにも私に会いたがっているかと言うと、私の提案、考案した物でとても辛く悲しく理不尽で、どうにもならないと思っていた問題が解決し、救われた人達がお礼を言いたいという事と、私と少しでもお近づきになりたいという事らしいわ。
DNA鑑定もそうなんだけど、前世でいう所の警察の組織体制を提案したり、魔法科学省なるものが出来たのを機に、全力で科学捜査の基本をアドバイスしちゃったのよ!
実は何を隠そう、前世の私はアメリカドラマの『C○I 科学捜査班』が大好きだったの!
『○SI』にはシリーズでニューヨークとマイアミがあるんだけど、私は無印のベガス!ラスベガスが大好き!!最終回は永久保存版よ!
DNA鑑定もそうだけど、基本の指紋採取は勿論、現場捜査よね。現場百遍って言うでしょ?それを徹底してもらったわ。
殴った時や、刃物で切り付けた時の血液の飛び散り方とか、死後硬直からの大体の死亡時刻の割り出しだとか・・・もう、ミーハー全開よ!
科学と魔法の融合だからかなり正確で、結構いい感じになっているの。
というのも、此の世は兎に角、貴族優位で力無い者が冤罪で裁かれる事が多いの。
科学的なものが遅れていた事もあるんだけど、貴族の平民に対する意識がね、クソなのよ。
私が平民のふりしてパン屋で働いてる時も、偉ぶった貴族が何かにつけて言掛りや権力を翳して脅してきたりと、どれだけ腹が立ったか!
よく侯爵様にチクッてたわ。ふふ・・使える者は使わないとね。そいつらはもう二度とお店に来ることはなかったわ。
話は逸れちゃったけど、そういう事があったり身近な人が冤罪で捕まったりとかあったから、許せなくて思いっきり前世の記憶を使ったのよ。
疑わしい事件や、いかにも冤罪では?というものを再調査させてたら、それこそ全てが真っ黒黒よ!
再調査のおかげで、冤罪で捕まっていた人たちは解放され、悪い貴族が捕まっていったわ。
私が王宮に行く時に面会を申請する貴族達は、DNA鑑定は勿論の事、事件再捜査で冤罪から救われた人達がほとんど。
貴族にも階級があるから、高位貴族からの圧力に屈する下級貴族が殊の外多かったのよ。
その事実に、国王達も頭を抱えていたわね。
当然、家の方にも面会打診はわんさか来るんだけど、丁寧にお断りしているのよ。
実際、彼等の為にやったわけではなく自分の身近な人達の為にやった事が、たまたま他人の為にもなったってだけだもの。
だから申請する人は、主に下位貴族の人達が多いの。まぁ、高位貴族もいるわよ。例の『カッコウ公爵』に嵌められた人達だけど。
そんなこんなで、感謝されてはいるんだけど、それ以上に私を恨んでいる人もいるの。
犯罪を暴露され爵位剥奪や、莫大な罰金刑。牢に入れられ罰を受けたりとかした人達よ。自業自得なのにね。
だから、王宮で行なわれる茶会の参加者に選ばれるのは、数組の貴族のみ。
余り大勢を受け入れると、警備の問題が出てくるからね。
それに、細く長く私を王宮に呼び寄せようとする魂胆だと思うのよ!って、又も話が逸れてしまったけれど、つまりはピンク頭が言っていた日は、私には高貴な証人がいるって事なのよ。
驚きに呆然としているピンク頭など無視し、クリスはどんどん話を進めていく。
「それと、君が持っていたペンをアデリーヌ嬢が持っていたという件だが・・・」
その言葉で我に返ったピンク頭が、食らい付く様に「そうなのです!」と不敬にも言葉を被せてきた。
「アデリーヌ様が使っていたペンは間違いなく私の物です!」
う~ん・・・ペンって、恐らくアレよね・・・
アレを彼女も持っていたとするならば・・・・あり得ないわね。
だってあのペンは・・・・
「君が自分の物だと主張するペンは、これと同じ物かな?」
そう言って懐から一本のペンをクリスが取り出した。
それは見るからに高級そうな物で、光の加減によって赤く見えたり緑に見えたりと、不思議な色合いをしていた。
そう、まるでクリスの瞳の様に。
だが、クリスが持つペンを見た彼女は、一も二もなく大きく頷き自分の物と同じだと叫んだの。
もう、その時点で虚言決定!
クリスは呆れたように、そして絶対零度を思わせるような眼差しで彼女を見た。
「アデリーヌ嬢が使っていた物が君の物だと言う主張だが、それは絶対にあり得ない事だ」
またも、はっきりきっぱりと言い切られ、ピンク頭は「え?」と言いながら固まってしまった。
バレないと思って嘘つきまくってたのに、全て覆されるんだから、もう「え?」しか言えないわよね。
「何故ならば、これはこの世に二本しかないもので、私とアデリーヌ嬢しか持っていないのだよ」
事の成り行きを見守っていた生徒達から、驚きと共に「やっぱり!」と言う意味合いの小さな歓声が上がった。
あ~、もう少しうまく言って欲しかったわ。
ただでさえ、婚約者候補と勘違いされているのに。
私の事を弁護してもらっているんだけど、嬉しくないこの状況に思いっきり眉間に皺を寄せてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます