第10話
「トルワ伯爵令嬢、まず聞きたいのだが。君はアデリーヌ嬢に何をしたいのかな?」
あぁ、それは私も聞きたかった!婚約者候補解散の恨みだけで此処までやるものかしらって・・・
そんなことしている暇があったら、もっと教養を高めて国王陛下に売り込めば良かったのよ。顔だけは可愛いんだから。
クリスの問いは私だけではなく、彼女の奇行を見続けてきた周りの人達の心の代弁でもあったみたい。
「クリストフライト殿下、私はアデリーヌ様に自分の犯した罪を償ってほしいだけなのです!」
透き通った水色の瞳に薄っすらと涙を溜め、白い肌に上気した頬はまるで紅を差したかのように良く映えている。
ぱっと見、マジ可愛いわよ。庇護欲バリバリ誘う様な可愛らしさよ。
でも、その実態は・・・透き通った様に見える水色の瞳の奥はめちゃくちゃ濁ってるし、縋る様な表情しているけど口元が妙にヒクついている。笑いを堪えるかのようにね。
「それは、アデリーヌ嬢が君の私物を破損させたり盗んだという事かな?」
「そうです!私の家は決して貧しい訳ではありませんが、又、買えば良いという問題では無いと思うのです」
中にはお気に入りの文房具もありましたし・・・と、胸元で手を握りしめ、上目遣いでクリスを見ている。
そんな必殺技を繰り出すピンク頭を、何の感情も浮かべることなく見下ろすクリス。
あれはもう、バカを見る目だわ!汚物を見る目よ!王族だからあからさまな感情を顔に出せないから無になるのよ。
自室に戻れば、きっと罵詈雑言の嵐よ。側に居たくないわ・・・・
ピンク頭はクリスが大好きだから、見つめられて幸せいっぱいだろうし、味方になってくれるって疑ってないでしょうしね。
だってほら、蕩ける様な眼差しで好き好きビーム送りまくりだもの。
そんな彼女を無視するかのように、クリスは不思議そうにコテリと首を傾げた。
「それは何処での出来事かな?教室でかい?」
「そうです!前日教室に忘れていった教科書が、ズタズタに切り裂かれて机の上に置かれていたんです!」
「そうなんだ。でも、なんでそれがアデリーヌ嬢が犯人だって事になるんだい?」
「私見たんです・・・・黒い髪の女生徒が慌てて教室から出ていくところを」
「ふぅん。君の他には生徒はいなかったの?」
「はい。その日は私が日直でしたので、私が一番早かったのです」
「じゃあ、日にちは特定されるね。いつの事かわかるかい?」
「はい」そう言って詳しい日時を告げる。それを聞いて私はあれ?っと首を傾げる。クリスも僅かに目を見開いてる。
「じゃあ、私物を盗まれたというのはいつの事?」
「放課後、図書館に寄って課題を調べようとした時、筆箱を教室に忘れた事に気付いて取りに行ったのですが何所にも見当たらなくて・・・」
僅かに俯き少し溜を作りながら、悲し気にクリスを見上げた。うん、女優だわ。
「結局見当たらなくて、全て新しく揃えたのですが、その数日後、図書館でアデリーヌ様をお見かけした時、使っていた文房具を見てびっくりしました!だって、私と同じ物・・・いいえ、あれは私のペンでした!大切に使っていた物です!見間違えるはずもありません!!」
え~・・・何それ。まるで私がペン一本も買えない貧乏人みたいな言い方。ムカつくわ。
思わず眉間に皺を寄せながらクリスを見れば、彼も眉間に皺を寄せている。
「そのペンというのは、少し不思議な色合いの緑色のものかい?」
「・・・っはい!そうです!」
「君はそのペンをどこで購入したのか聞いても?」
「そ、それは、父が買ってくれたものなので詳しくは・・・」
「・・・・そう。で、他にも何かあるのかな?アデリーヌ嬢が犯人と思われる出来事は」
そう聞いた事をどうとらえたのか、彼女は調子こいてベラベラ語り始めた。それはもう、まるで物語の様に。
その度にクリスは詳しい日時だとか状況を聞き出し、後ろに控えている側近にメモさせていた。
・・・そして、
「トルワ伯爵令嬢。君は妄想癖が激しいのではないかな?専門の医師を紹介しようか?」
「・・・・は?・・・もう・・そう?」
「そう。君がアデリーヌ嬢に擦り付けようとしているそれらは、全て妄想だよ」
はっきりと断言され、ピンク頭はカッと目を見開き、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「妄想ではありません!!殿下は私の味方ではないのですか!?」
「味方・・・と言うより、私は公平な立場だよ。どちらの味方でもない。でも、片方の主張が全て嘘であれば必然的に、もう片方の味方にならざる得ないだろうね」
「わ、私が嘘を言ってるとでも・・・・」
「うん。全部嘘だね」
きっぱりと言い切るクリスに、様子を見守っていた生徒達は「当然だろ」と頷き、ピンク頭は信じられないものでも見るように呆然としていた。
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