第9話
「エリン様は証人がいると仰ってますが、我々にも証人がおりますの」
そう言いながらピンク頭を見るエミリー様の表情は、とてつもなく冷静で揺るぎがない。
エミリー様は金髪碧眼で、ちょっとお顔がきつめだけれど、とても美しく凛々しいの。もし、エミリー様が男性だったら、惚れてたかもしれないわ!
だって、私を庇ってくれるその堂々とした姿は、正に物語に出てくるような王子様みたいなんだもの。
・・・・・あ、本物も目の前にいるけどね。
イケメンだわ・・・と惚れ惚れしながら見ていると、何故かクリスに睨まれていたわ。気にしない、気にしない。
そんな事を考えているとピンク頭がエミリー様を睨みつけながら「証人って誰よ!」と叫んでいる。
「先ほども申し上げた通り、エリン様は主に中央棟にてアデリーヌ様に絡んできます。中央棟は常に生徒の往来が激しく、又、東棟と西棟との交流の場でもあります。
よって、エリン様の奇行の目撃者はこの学園の生徒という事になりますの」
「え?!何言っているの!そんな曖昧な証人なんて信用に欠けるわよ!」
「曖昧ではありませんわ」
エミリー様はそう言うと、ぐるりと周りを見渡した。そして、様子を見守る様に囲っていた生徒たちによく通る声で問い掛けた。
「エリン様の奇行を目撃した方は挙手願います!」
すると、ザッっという音と共にほとんどの生徒たちが手を挙げた。
思わず私、鳥肌ものよ!一糸乱れぬ壮観さに、チキン肌stand up!よ!!
そして次々と証言してくれたの。主に卒業生達が。
きっと、晴れの卒業パーティーにくだらない事で水を差されて、腹が立っているんだと思うわ。
「彼女はよく、アデリーヌ様に絡んでいたのを見かけていました」
「何もない所で一人で転んで、アデリーヌ様に言掛りを付けていましたわ」
「僕も見ていました。アデリーヌ様とすれ違う直前、いきなり彼女が走ってきて目の前に倒れ込んだのです」
それは私も覚えているわ。
いつもの様に私の前で転んでいちゃもん付けは始めたんだけど、今証言してくれた彼が「何言っているの?自分で勝手に倒れ込んだのに」と、さも不思議そうに返してくれたのよ。
まさか、そんな事言われると思ってなかったんでしょうね。真っ赤になって何も言わずに逃げていったわ。
私は言い返してくれた彼にお礼を言ったから、よく覚えていたのよ。
思わず「その節は、ありがとうございました」とお礼を言うと「お気になさらずに。当然の事を言ったまでですから」と照れながらも返してくれた。
次々と自分に不利な証言ばかり出てくるもんだから、ピンク頭は私を睨みつけながらギリギリと歯を鳴らした。
可愛い顔がこうも醜悪になるなんて怖いわと、ちょっとビビっちゃったわ。
しかも、ピンク頭の言っていた証人って、彼女がしがみ付いていたどこぞの貴族子息なんだけど、分が悪くなってきたと悟るや、ススッと彼女から離れていった。
此処に居る生徒たちが証人として手を挙げている時点で、ピンク頭の虚言だってわかり切っているのに、彼女はまだまだやる気みたい。
今度は噴水に突き落とされたって言うけれど、これもまた目撃者多数で虚言決定。
いつも思っていたんだけど、私しかいない時じゃなくて、周りに結構生徒達がいる時に行動を起こすのよ。
多分、私を悪者にしたくて目撃者が必要だったんだと思うんだけど・・・確かに目撃者多数だわよ。彼女の奇行に対する目撃者がね。
いつの間にか『ピンク頭VS卒業生』になっていて、ピンク頭は完全に孤立。パーティーが始まった時に居た筈の数人の取り巻き男子は、気付けば一人も居なくなっていたわ。
かなり不利な状況だと言うのに、彼女はやはり諦めない!
今度は、教科書が破かれたり、私物が盗まれたと、クリスを見つめながらクリスに訴え始めやがったわ。
いや、それってどう見ても悪手でしょ。クリスも新種の生物でも見るかのような、微妙な表情しているわ。嫌悪丸出しでない所は流石だけどね。
そして、自分に向かって言われたからなのか、自分の婚約者候補時代に受けた嫌がらせを思い出してなのか、単にピンク頭がしつこいからなのかは分からないが、これに関してはクリスがノリノリで受けてくれるみたい。ぱっと見わかんないけど、かなりご立腹のようです。
私の事なのに、私、ほとんど発言してないし。でも折角だから、お言葉に甘えさせていただきます!ピンク頭とは言葉が通じないんだもの。
「トルワ伯爵令嬢、私は君が何を言いたいのかが良く分からないのだが・・・」
困った様に小首を傾げれば、ピンク頭はこの状況を忘れクリスに見惚れていた。だって彼女、クリスの婚約者候補時代に、既成事実を作ろうと虎視眈々と狙っていたほど王子様が大好きだったんだもの。
理由はどうであれ、今現在、自分だけが見つめられているというその事実が、彼女を舞い上がらせているみたい。
そして、何を隠そうクリスはとても顔が良いのよ。
黒い髪は背中の中ほどまで長くて、ハーフアップにしてる。いつもは邪魔臭いと、一つにまとめてるんだけどね。
彼の瞳は光の加減によって色が変化する、王族特有の不思議な輝きを持っているの。宝石のアレクサンドライトに例えられているわ。
私も幼い頃、彼等の瞳が不思議でよく観察させてもらったのを覚えている。
ずっと見てても飽きなかったのよね。当然だけど、クリスの方が根を上げて観察終了となっていたんだけど。
いつも顔を真っ赤にしていたから、じろじろ見られてきっと怒っていたのかもしれないわね。今思うと、悪い事をしたなぁと思うの。
もしそれが自分だったら、多分、殴ってたわ・・・・今更ながら、クリスの優しさが身に染みる今日この頃よ。
と、話は逸れたけれど、大好きな王子様から断罪されようとしている彼女。
多分、今は自分だけを見つめてくれて、幸せの絶頂なんでしょうね。
その絶頂から奈落に落されるであろう事を想像し、私は思わず心の中で合掌してしまったわ。
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