第8話

「ではまず一つ目の、よくアデリーヌ様に足を掛けられ転ばされたり、噴水に突き落とされたりという話ですが、全て嘘です!」

エミリー様のあまりに堂々たる姿に、ピンク頭が気圧されたように半歩後退ったけれど「こちらには証人がいるのよ!」と騒ぎ始めた。


そこで初めて私に掛けられた冤罪の内容が分かったわ。

遠くでクリスも「へぇ~」みたいな顔している。

確かにピンク頭と遭遇はしていたわ。だってあちらの方から寄ってくるんだもの。

前にも言ったけど、勝手に転んだり噴水に飛び込んだりと・・・こっそりじゃない所が、すごいなぁって感心してたくらいよ。

さて、エミリー様はどのように切り返してくれるのか、思わず第三者よろしく彼女を見れば、お任せくださいみたいに頷いてくれた。本当、イケメン!


「まずは足を掛けられ転ばされたという事ですが、エリン様はアデリーヌ様を見つけると、其処が屋内であろうと屋外であろうと構わずめがけて走ってこられます。そしていきなり真横に滑り込むように転ぶのです」

「滑り込む、だって?」

私の言葉を代弁するように、クリスが返した。

「はい。勢いよく真横で転び、アデリーヌ様に足を掛けられたと騒ぎ立てるのです」

「だって本当に足を掛けられたんですもの!」

え?いや、あれの事を言うんであれば、無理があるよね。

だって、人ひとり分くらい離れた所でいきなり転ぶんだもの。私の足はそんなに長くないわよ。

ピンク頭は隣にいる令息の腕にしがみ付きながら、先ほどとは一変、うるうると目に涙を溜めか弱い令嬢を演じ始めた。

そんな彼女など無視するかのように、エミリー様は淡々と事実を述べていく。はぁ・・・イケメン!

「まず、彼女が主にアデリーヌ様に絡んで来るのは中央棟のエントランスです」


説明しよう。

私が通うこの学び舎は、ジェラート学園というの。前世の記憶がある私にとっては、美味しいジェラートが思い起こされて、ついついアイスクリームを作っちゃったわ。バカ売れよ!

美味そうな名前の学園だけど、教育方針はかなりシビア。

十六才から二年間通うんだけど、貴賤関係なく実力主義。

就学期間も二年と短いから、かなり濃い学習内容になっているわ。

クラスもS、A、B、C、Dと五つあり、最優秀者がS、成績上位者がA、B。普通なのがCとD。

学園もS~Bがある東棟と、CとDがある西棟に分かれているの。

当然共有スペースはあって、それが中央棟なわけ。玄関ホールは勿論の事、食堂、売店、図書館などなど。

クラスに人数制限は無く、基準さえ満たしていればその成績に合ったクラスに入れるの。

例えば、Sクラスに入れる基準を全校生徒が満たしていれば、全てSクラスに入れるってわけ。

そしてクラス分けは、年四回ある試験の成績により判断され、学期途中でもクラスが変わる事があるの。だって、二年しかないからね。

途中で変わった子達にはちゃんと補習もあって、成績が上がれば上がるほど手厚いのよ。


実力主義の学園だけど、上級クラスにいるのは八割は平民。残り二割が貴族。

平民にとってこの学園に通えること自体名誉な事で、好成績で卒業できれば王宮勤め、つまり国家公務員になれる事が約束されたようなものなのよ。

成績優秀者は何処の職場でも、引く手も数多だからね。

それに平民出の生徒は、Bクラスまでは学費から何から全て免除。だから必死なの。


因みに私はSクラスで、エミリー様も同じ。ピンク頭はDクラス。

S~Bクラスは平民も必死だけど、家を継げない貴族令嬢子息も結構居てこちらも必死なのよ。

この学園に通う貴族の子供達は大きく二種類に分かれているわ。

成績上位者達は、己の実力で生きるすべを掴もうとしている者がほとんどで、そこら辺は平民の人達と一緒なのよね。

だから、東棟の生徒たちは貴賤関係なく切磋琢磨しているから、身分なんて存在していないと言ってもいいかもしれないわ。

反対にC、Dクラスは条件の良い婚約者を見つける為に存在しているの。平民はおらず貴族のみよ。

授業の内容も、貴族に必要な科目がほとんど。

C、Dクラスは別名婚活クラスと呼ばれてるくらいだから、跡継ぎの子息令嬢も出会いを求めて入学してくる。

あわよくば、成績上位者の貴族子息令嬢を・・・という者達がほとんどよ。

だからって遊びまくっていては卒業できないのよ。

そのクラスに合わせた成績を満たさなければ、留年ナシの速攻退学。それこそ、貴族平民関係なくね。

例えC、Dクラスだったとしても、この学園に入学した事は貴族達にとってもステータスの一つになってるのよ。だから、退学になってしまったら落ち零れの烙印を押された事と同じ。

いくら婚活クラスでも、そこそこ勉学には励まないといけないのよ。婚活同様にね。


そして、成績上位の貴族との出会いは中央棟でしかないわけ。

其処を狙っていつもピンク頭が奇襲を仕掛けてくるのよ。

それが仇となり、今や『奇行令嬢』として有名になっていた・・・・らしいわ。


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