第5話

此処は煌びやかな王宮の謁見の間。

数段高い所にこの国の王と王妃、そして二人の王子が我々、キャベンデッシュ侯爵一家を見下ろしている。


「どうかな、そろそろ我が息子どちらかと婚約してみては」


それって、何度目ですかね。陛下。

私がキャベンデッシュ侯爵家に籍を移した途端、あいさつ代わりに言われる言葉。

そして、この世界は十五才で成人。

結婚してもおかしくない年齢になったら、全く遠慮ないわね。

私が十五才になってから、このセリフだけではなく、王子達もグイグイ来るようになってきた。

いや、王子達は出会った頃からグイグイきてたわ。ただ、それこそ遠慮が無くなってきただけ。うん、遠慮皆無よ。

初めて言われた時は驚いたし王子達が絡んできた時には、とうとう実力行使できやがったか・・・と思ったわ。

でもね、今ではそんな事などモノともせず、にこやかに返せるまでに成長したわよ。わたくし!


「お断りします。私、平民になる予定ですから」

「そうか。それは残念だ。我が息子たちの努力がまだまだ足りんとみえるな」

いえいえいえいえ・・・何言っちゃってるんですか。足りる足りないの前に・・・

「好みではありませんから」

思わずぽろりと出ちゃったよ。心の声が。

やばっ!不敬にならない?

―――・・・・いや、なってもいいんじゃね?身分剥奪で平民になればいいんじゃね?

嫌だわ、私ったら「近寄りたくねぇ」だとか「ケツの青いガキには興味ないのよね」なんて心の中で思ってる暇あったら、口に出して不敬すればよかったのよ!馬鹿だわ、私っ!

思いっきり、期待を込めて陛下を見れば、何かわかんないけど溜息吐かれたわ。え?不敬は?身分剥奪は?

「アデリーヌ嬢はどのような男が好みなのだ?」

不敬どころか好み聞かれたわ。

「年上のダンディな人」

なんせ、ワタクシ前世と合わせると五十才近いですから。王子達は二十才と十九才で、此処での私よりは年上だけど・・・・精神年齢よね。

私にかまわず、早く婚約者決めればいいのに。顔もそこそこ良いから、モテモテなのも私は知っている。

あっ、でも、元祖悪役令嬢は自滅していたわね。

「年上・・・具体的に好いている男はいるのか?」

「好いているというか理想と崇める男性はいます」

「ほぅ、どのような人だい?」

何故か王様だけではなく、王子達や周りの騎士達の目が、キランと光った。・・・気がした。

そんな視線の意味に気づく事無く、私は憧れのあのお方の素晴らしさを伝えるべくスッと息を吸った。

「私の理想の男性は、鍛冶屋のルジオさんですわ!!」


―――・・・・・・は?


という声と共に、その場が一瞬凍りついた気がしたけど、知らんぷりよ。

とにかく、語らせて!!

「ルジオさんは、とても腕の良い鍛冶屋さんなのです。元冒険者で御年四十才ですわ。ですが、お年よりもとても若く見えますの。

そして何よりその身体つき!筋肉は付いているのに筋骨隆々と言うわけでは無くて、理想的な細マッチョ!

ハンマーを振り下ろすときの上腕二頭筋と大胸筋!!あの盛り上がりがとても逞しくてうっとりですの!

そして脱げばもっと凄い、シックスパッド!!お顔もとても私好みで、普段はあまり表情が変わらないのですが、たまーに相好を崩すとくしゃっとなって、可愛らしさが堪らないのです!!

涼やかな眼差し。スッと通った鼻梁。薄めの唇に、余計な肉が削がれ、頬から顎にかけてのシャープなライン!正にイケメン!!

とってもおモテになるのに奥様一筋!其処もポイント高いですわ!!」


思わず前世の言葉を交えながら捲し立ててしまったわ!ちょっと冷静になると恥ずかしさが込み上げてくるけど、後悔はしてないわよ。

だって、この想いを語り合う人がいなくて悲しかったんですもの!

私って、貴族社会の中では友達一人しかいないのよ。

平民には沢山いるんだけど、イケオジ推しは私と同年代では誰もいないの。悲しいわ・・・

それが何のご褒美なのか、年代性別関係なく推しを語れるなんて、夢みたいで懇々と語っちゃったじゃない!ふふふ・・・

これだけ熱烈に好みを大っぴらに宣言したんだから、陛下も諦めるわよね。

もう、嫌だわ~。愛が溢れまくりよ。


照れまくりながらも、陛下達を見れば目をかっ開き固まっていらっしゃる。

あらあら、ちょっとエキサイトしちゃったかしら・・・私って外面だけはよくて貴族令嬢の鑑って言われてるらしいのよ。

あくまでも、外面ね。だから突然、本性出しちゃったからびっくりされたのね。

「と言うわけで、王子様達にはそれ相応のご令嬢の中から婚約者をお選びください」

ドレスの裾をつまみ綺麗なカーテシーをすれば、周りからは「ほぉ・・・」と感嘆の声が漏れるけど、うちの店のパンを褒められた方が嬉しいわ。

カーテシーで褒められても、腹は膨れないし懐も温まらないもんね。

もう、そこら辺の意識から平民なのよ。私は。

「それでは私はこれで、お暇させて頂きますわ」

不敬を恐れなくなった私は、やりたい放題よ。

返事も聞かずに帰っちゃうわよ。お母様は侯爵と帰って来てね。うふっ。


謁見の間を出て扉を閉める瞬間、中で何やら大騒ぎしてたけど私は気にすることなく扉を閉めて、ドレスをたくし上げ猛ダッシュで廊下を駆け抜けた。

すれ違う人達が、何事かと目を剥いてるけど気にしない、気にしない!


そして、鍛冶屋のルジオさんを見学する騎士達や、身体を鍛え始める貴族たちが増えた事を私は知らない。

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