第3話
それにしても、あまりに小説とは違う現実に私は戸惑ってしまう。
元祖悪役令嬢は居なくなったけど、第二第三の悪役令嬢が出てくるかもしれないかと思うと、小説の内容が全くあてにならなくて不安になるわ。
やっぱり物語の強制力ってあるかもしれないもの。
小説の断罪ヒロインはお花畑の無知だった。だから私は利用できるものは何でも使って、完璧な令嬢になったわよ!
まぁ、それを発揮する機会はあまりないと思うけど・・・なんて思っていたら早速、王宮から呼び出しが来たのよね。
DNA鑑定のお礼を言われたわ。正直、前世に目覚める前にやらかした事だから感謝される覚えはないんだけど。
魔導具を作ったのは侯爵やその部下の人達だし。―――ネーミングセンスは最悪だけどね。
「何か欲しいものは無いか?」
と聞かれて私は思いっきり声高に要求しちゃった。
「平民になりたいです!」とね。
DNA鑑定でお礼を言いたいという貴族達も集まっていて、国王始めみんなが目ん玉飛び出る位驚いていたわ。
一番初めに冷静になったのが、王様。さすがよね。
「アデリーヌ嬢よ。何故、そなたは平民になりたいのだ?」
と問われ、馬鹿正直に理由なんて言うわけが無いでしょ。頭おかしいと思われちゃうもの。
元祖悪役令嬢が居なくなったけど、油断はできない。貴族でいる間は安心が出来ないのよ。
その点、平民になれば断罪されずに済むものね。
それに八才から働いているパン屋さん。前世の記憶を駆使して食パン、菓子パン、総菜パンを作って販売したら、めっちゃ儲けちゃったのよ。
この世界のパンは黒パンが主流で、私はあの酸味が苦手だったの。だから、ふわっふわの食パンやクロワッサンを作ったわ。自分の為に!
納得いくまでちょっと時間かかっちゃったけど、失敗作でもおじいさんとおばあさんが美味しいって喜んで食べてくれて、私の知らぬ間に宣伝されちゃってたの。
まぁ、伯爵の家のおじい様にも差し入れしていた所為もあって、完成作はあっという間に売れたわ。
おかげさまで、今では店の看板メニューよ。
で、かなり儲けてるんだけど、おじいさんとおばあさんには子供がいないわけ。本当に人の良いおじいさん達は、私が知らない間にこの店を私名義に変えちゃってたの。
つまり私は平民になっても生活できる基盤ができてるってわけよ。感謝だわ!
だから私は一言「貴族が性に合わないので」と。
頭を抱えた王様は、取り敢えず褒美は保留という事で、その日は解散。
家に帰ってからは母親には大泣きされ、侯爵からは怒られはしなかったけど説明を求められ説得され・・・と大騒動。
でも、私の気持は変わらない。
だって、侯爵家に今は家族で住んでるけど、どうしても侯爵の事を父親と受け入れられないのよね。
未だに「侯爵様」呼びだし。
私って頑固なところがあって、嫌だと思ったものはとことん拒否するところがあるのよ。それは自分でも分かっていて、ある意味損してるなって思うんだけど、どうしても受け入れられないの。
やっぱり幼少時「愛人の子」だとか「不倫の子」と言われた事が大きいのかも。
それと、侯爵令嬢になったとたん掌返ししてくる貴族達。やっぱ、私には無理だわって思って、改めて平民宣言したわ。根本がど庶民だからね!
侯爵とは心の距離感が縮まらなかったから、快諾してくれると思ったんだけど、意外にも大反対。
侯爵家を継ぐつもりは元々なかったし、小説設定からはかなり逸脱してたけど、やっぱりわが身が可愛いでしょ?なら、貴族やめちゃうわよ。
後継者が欲しいんであれば、子供作ればいいじゃない。まだ若いんだから。って言ったら泣かれたわ。ごめんね、無神経で。
私嫌いなものにはとことん冷たいのよ。前世から。
話し合いは平行線。忙しい侯爵とは週に数回しか会えないから話が進まないのよね。
そんな中、王家から再度出頭命令。何なのよ。三ヵ月前に出頭したばかりじゃない!
そんなこんなで十六才になった今も、三ヵ月に一回が一か月に二回というハイペースで出頭命令がくるのよ。意味わかんない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます