第15話 招かれざる客
その日。試衛館には重苦しい空気が立ち込めていた。
門をくぐった瞬間からおかしいと思っていた。
玄関前の石畳に腰掛けて、苛立たしげに中の方を睨む歳さん。
その横で心配そうな顔で同じく中の方を覗き込む源さん。
そして、いつも冷静でみんなの御目付け役のような山南さんが落ち着かなさげに歩き回っている。
…これは確実になにかマズい事が起こっているようだ。
『山南さん。』
そう声をかけるとハッとしたようにこちらを見た山南さんは、小走りに私の方へ近づいて来て私を隅の方へ連れて行った。
それに気づいた歳さんと源さんも来て、私を取り囲む。
『…え?』
私なにかしちゃったかな?もしかして、未来から来たことがバレた?と目まぐるしく考えていると
『おせい、姉貴は?』
焦ったような顔の歳さんに聞かれ、今日本当は一緒に来るはずだった歳さんの"姉貴"、ノブさんは近所の奥さんが急に産気づいたとかで来れなくなってしまったこと、そのため私が1人で来たことを伝えると3人とも険しい顔つきになった。
『なにかあったんですか?』
聞かれたくないことなのかもしれない、とは思ったけれど思い切って聞くと、歳さんが一言、苦虫を噛み潰したような顔で『総司の姉貴が来てる。』と言った。
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そっと裏口から道場に入った私たちは、厨に座り込んで小声で話し合っていた。
『おせいさん、沖田くんから、御家族についてなにか話は聞いていますか?』
山南さんに話を振られて、『色々とあって折り合いが悪い、ということでしょうか?』と聞くと『あぁ、知っているなら話は早いですね。』と返されて『やっぱりか』と複雑な気持ちになる。
あの日。私が沖田総司を『兄』と呼ぶようになった日。私が『沖田総司の妹』になった日。
兄上の口から直接聞いた家庭環境、生い立ちは、私と重なる部分もあって。
兄上も、私になにか共通するものを感じ取ったんだと思う。
『いやぁ…困ったね。』
源さんが客間の方を伺いながら呟く。
『今更連れ戻しに来るなんてね。総司の気持ちも考えず…』
『連れ戻しに…!?』
思わず聞き返すと、山南さんが忌々しげに客間の方を睨みつけながら、
『幼い沖田くんを邪魔者扱いしてまるで厄介払いのようにここに預けたくせに、今になって家督を沖田君に譲るからこんな貧乏道場の門人なんかやめてさっさと家へ戻って来いと。』
と今にも舌打ちしそうな勢いで吐き捨てるように言った。いつも穏やかで怒ったり問い詰めたりする時も冷静に穏やかに問い詰めていくタイプの山南さんがここまで感情を露にしているのは初めて見た。
…じゃなくて。
『兄上は…?兄上はどこにいるんですか?』
『総司なら若先生とおみつさんと一緒に客間だよ。とりあえずもう少し近づいてみよう。』
年長者の源さんはやはり落ち着いていて。
私たちは頷き合うと、足音をたてないように客間の方に移動を始めた。
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