第13話 試合と兄と手ぬぐいと。



通い慣れた道を歩き、試衛館の扉を開けて道場に向かう。




道場に入ると、ちょうど手合わせの最中だった。そして戦っているのは―――山南さんと、歳さん。




普段の二人からは考えられないくらい、闘志に満ちていて、迫力があって。




気づけば、着物のことで怒っていたのも忘れて魅入ってしまっていた。




『そこまで!!!』




近藤さんの試合終了を知らせる声でやっと我に返る。




面を外したお二人はそりゃあもう汗びっしょりで。



慌てて手ぬぐいを持って駆け寄ると、



『おう!来てたのか、ありがとよ』



と言って受け取ってくれる。



山南さんにも手ぬぐいを渡すと、




『おや、いつの間に。』



と笑ってくれて、そこにはさっきまで激しい試合をしていたのが嘘のようないつも通りの2人がいた。




よく『刀を握らせると別人になる』とか言うけれど、いまいちピンと来ていなかった。



百聞は一見にしかず。



1人で感心していると、後ろから背中をぽん、と軽くなにかで突かれて振り返ると、ムスッとした顔で私の背を木刀でつつく兄上がいた。



『おせい。僕にも…手ぬぐいちょうだい?』



『兄上は、汗をかいていませんが…』



なぜ汗をかいてもいないのに手ぬぐいを欲しがるのだろうか。


不思議に思って首を傾げる。



『お前もまだまだ子供だな』



とこれ見よがしに手ぬぐいで汗を拭う歳さんと、それを横目で見て



『あなたも人のことを言えないでしょう…』



とため息をつく山南さん。




『大事な妹君が自分より先に他の者、しかも男に手ぬぐいを渡したのが気に食わないのでしょう。それに気づいていながらなおその手ぬぐいを使う歳さんも歳さんですが…』




そこまで言って、ジトリ、と2人を交互に見てから兄上の方を見て



『まあ…妹に構いすぎる兄というのは妹には鬱陶しがられ、妹の恋仲の男や、ゆくゆくは結婚したとき旦那にあたる男には嫌われると相場が決まっていますからね。あぁ、間違っても「妹は嫁にやらない」なんて言わない方がいいですよ。鬱陶しがられるだけでなく嫌われても文句は言えませんからね。』


と言い放つ。


続いて歳さんのほうに向き直ると


『人に子供っぽいと言っておきながら随分と子供っぽい真似をするものです。そういえばひと月ほど前に「姉貴はいつまでも俺を子供扱いしやがる…」と誰かが言っていたのを耳にしましたが…実際子供っぽいのでしかたありませんね。』



小さくなってしまった2人をまたジトリ、と見つめた後に私に向かって満足気に微笑む山南さんは正に『容赦なく子供を論破したお母さん』だった。

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