第19話

「私は〈たらこパスタ〉好きなので先に席を取っておきます。霧をも掴む思いで店内を彷徨い歩きたくは無い。注文は君たちに任せた。荷物にかける布はシルクがいい。」

「ええ、ありがとうございます。僕らで注文を済ませておく。僕は割と〈ボロネーゼ〉好きなので、隣の《L.L.Bean》へ服を探しに店を出ます。テラスの風鈴が気になるので、今のうちに風邪をひかないように、お兄さんのくれたコートを羽織るのを忘れずに。じゃあ。👋」

「二人とも何しに喫茶店に来たのでしょうかね。これではまるで〈会計ごっこ〉に飛び入り参加するだけの為に《夢探偵》の短期バイトを始めたようにも思えてしまう。〈本日のコーヒー〉を三つ。電子パスタに用は無い。〈evian〉がいくらでも飲める。彼のコートはいいセンスね。お酒で汚したら、お医者さんだって馬術部の出身なのだとバレてしまう。風車を回しても競馬場からはお父さんは戻ってこないさ。」

「本日のコーヒーは〈フレンチロースト〉になります。ほら、これを見て。"スッキリ感が良し"。確かにそう記されています。我々には何ら関係の無いコーヒーメーカーによる"こじつけ"です。仕事が終われば帰宅してネズミでも虐待しますか。駅でもアイドルをストーカーして、神経症の方を見つけ次第に園芸鋏で刈り取りますか。人も鳩も分類すること無く焼き払います?」

「それではリュースが困る。公園で絵を描くのも人間の美しい姿でしか無いから。本当は〈地政学〉になんか興味は無いくせに。あのバウハウスの方々もピエールの手にした〈図書館カード〉には目もくれない。リンネと云いましたね。カイヨワと話をしてみたいはず。〈アナロジー〉では人は殺せない。夢や現実も顕微鏡や望遠鏡にしか解明手段は無い。錬金術など〈ホムンクルス〉を産む為の認識方法でしか無い。第三項?男と女の求めた答えが先祖なのか子供なのか、それとも天使なのか。世界を覆うものとは一体。」

「床がコーヒーまみれですよ。列も駅まで続いています。改札の先に妄言会話が繰り広げられていると知れば、全員が殺し合います。誰もその先にある絶望を見ることが無かった。目の前の鳩すらも見つめることなど。」

「すみません。ついつい。〈ボロネーゼ〉や〈たらこパスタ〉も空虚や哀愁では無く、煙が漂う始末。本日の〈フレンチロースト〉になります。300人分。消し炭を土偶にして遊びます?足裏に僕らの名前でも書いておきましょうか?ムウマ、ミミッキュ、ゲンガー、ヨノワール、ユキメノコ、ミカルゲ、ジュペッタ、ワルイコ地方マスキッパ。ヌオー廃墟暮らし。テリアモン神格化。アルフォンス・エリュアール。」

「それでは全員でパリから脱出するのも無理がある。オペラハウスへ向かいましょう。全財産を投げ打って、街の全ての方々を招待するのです。そうして音に消されて、監獄生活への僅かな慰めを。」

「見たいものを?」

「プラハ行きならあちらへ。今頃駅では〈日曜日の預言者〉が牛乳を飲み終えたはず。霧をも掴む思いで。何故ならその子が窓拭きをやめたから。お医者さんの仕業。」

「ティラミスのショートを。彼には水で。昨日も明日も、水しか飲めないのだから。本日も。本当に無様。笑えるわ。」

「こちらを。本日のevianになります。よくかき混ぜて。底には一つだけ。夏の残骸。君の指差す箱には何も無い。味付けに夢中な街の夢遊病者たち。無理して熱帯へ向かわなくとも、星ならどこにも輝くのでは。パリとか。」

「夢は見たいわ。」

「この先は夢じゃ無い。」

「それでも自殺してはならないのは何故?」

「ミミを埋めたからさ。夢なら会える。」

「あなたの現実を生かしても人は死ぬだけよ。」

「人が死なない為の現実さ。こちらでは常にホロコーストを生きるだけ。時間も非在にされたまま。悪魔と僕との間に生まれた《人の世界》であれば全てを許す。僕のお母さんから子供を誘拐した彼女だって、もう笑う事にしか価値を見出せなかったのだから。彼女が夢魔だとしても、僕はアリスにはならない。彼女の継承した悪夢を終わらせるのは僕では無く、《氷菓》。岩手の駄菓子屋に見つめた《それ》を舐めて終わらせる。」

🥬「人形劇だね。全く訳がわからないよ。」

⌛️「⌒🐋」

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🍎「《TENET》!?この期に及んで...!?」

⌛️「見つめるのよ。我々の。その先に焼けた彼らの残骸を。箱に埋めてはならないの。」

🎻「見たいものを?」

⌛️「はじめから。目の前に。」

🍮「暁美さん...。」

⌛️「あなたは死ぬわ。お化けが内から巣食うもの。逃れることなど出来ないのよ。それでも見つめるの。その子は何も知らないのだから。あなたは何も残してはならない。その悪夢を存続させてはならない。必ず答えを見つけなければならない。でなければ同じことの繰り返し。私は〈無価値〉に辿り着くだけ。何も見てこなかったから。あなたに預けるのは〈枯葉〉だけ。ピアノに消されて齧るだけ。何の価値も無い。それでも近寄る鳩の子供が、あなたの生きた世界に答えを知らせるものだから。人や街では無く、その子を見つめてご自身のことを赦すの。そうすることで、見つめた先を生かすことには繋がるわ。大して価値も無く、この世の虚飾を気にするけれど。それでも初めから我々はサーカスに誘拐されたのだから。その先に見た現実になど居場所は無いのよ。ここで生きて、先も無く。全員で離脱することなど出来ないの。何故なら一度始めてしまった事は仕方が無いから。終わりまで全員無事で生きなければならない。我々の人生に救いは無い。けれども子供たちが同じものを見る必要が無い。それでも街には夢遊病が蔓延する。ネズミがサラダを作ることなんて無理なこと。たまにケースから出てしまうものが現れようと、必ず箪笥の奥で生き絶える。我々に居場所など、何処にも。それが本質。誰でも知っている。但し見つめることが難しい。話すことすら叶わない。非在を生かすわ。見込みはある。」

▫️「https://m.youtube.com/watch?v=NQqeDOsObT8」

「冬が近づく。」

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「投影先に〈返却期限〉は欠かせない。人や街、子供たちでは無く。映画や書物。両親の事情に寄り添う事は無い。それこそ遠くから見つめなければ。我々の《藁人形》を残して立ち去る。その先の現実に答えを見つける。ゴーストに《毒》は不要。《フェアリードール》に価値は無い。非在する声を鍵盤に。見たいものを。」

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