作文って、難しいよね
夜野 舞斗
書けないっ!
中学校の宿題で「親のことを原稿用紙二枚で作文しなさい」と言われ、「やったぁ」と喜べる人がどれだけいるだろうか。
私は「ほとんどいない」と考える。だって親と言うのは口うるさい存在だ。「自分が過去にできなかったから、失敗を繰り返させたくない」と自分の考えを子供に押し付ける。
何度私はアンタの変わり身人形でないと言ったことか。
親について思うところはたくさんある。しかし、それを作文に書いて良いものだろうか。学校で「作文を読みなさい」と言われてしまったら、ただただ愚痴を並べることになる。そんな話を聞いていて、周りが気持ちよくなるとは思えない。
「ううん……どうしろって言うんだか」
提出期限の前日。その夜遅く。自分の部屋の机にべったり顎を付け、目の前の原稿用紙を睨みつけた。
まだ一文字すら書けていない。
嘘でも書いてしまおうかと思ったが。
その嘘が全く思い付かない。親が何を私に施していたら、良い作文とみなされるのか。私が親について「いつも育ててくれて感謝してます」とでも書いたら、先生は褒めてくれるのか。否。
知っている。うちの先生は少々作文に厳しい。誰にでも思うことを平々凡々に書いてしまったら、「手抜きをしたな。やり直しだ!」と叱られるに違いない。
何を書けばと、うんうん悩み、後ろに手を組んだ。それから座っている事務椅子をくるくる回し、無心になる。
母親はこんなことをすると「危険なことをしないの!」といっつも怒鳴りつけてくる。私が部屋で音楽を聴いていてもゲームで遊んでいても構わず、入ってきて怒っていくのだ。
全く面倒くさいとしか、思えない。
どちらを書くべきか。今の不満を原稿用紙にぶちまければ、先生もそこまで私の作文を手抜きとは言わないだろう。
ただ、その文章を読まされたり、教室の壁に提示されたりして学校にいる私の清楚なイメージを壊す位なら普通のエピソードを捏造してしまった方が良いとも思ってしまう。運が良ければ、先生も気にすることなく私の課題を認めてくれると思うのだ。
「……まるで分からない……」
そう呟いていた私。
本気で書こうにも思い返されるのは、口論だけだ。夕食についても手抜きで今日も「いっつも焼き魚なの!? 飽きてるんだけど!」と口答えしたばかり。
この話を私が悪いように描けば、一応工夫はできるが。何故私がその点について謝罪をすれば良いのかが分からない。健康に良いのは分かっているけれど、それももう一工夫すれば何とかなる。うちの母は工夫は足りないし、手抜きは多いし。一つも子供のことを想っているように感じられない。
もう明日も近いと言うのに全く思い浮かばず、私は大声を上げたくなった。
いっそ、作文を出さないと言う選択肢も。と思ったが、そんなことをしたら居残り間違いなしなのは分かっている。
ここで完璧な作文を書かなければ、終わってしまう。だけれども、私にはそれが書ける材料がない。親も今まで作ってこなかった。
ただただ不満しかない。
そう。例えばみんなが持っているからと欲しいものをねだった時、「うちはうち、よそはよそ」と言う癖に……他の子がテストでいい点を取ってる時は「何であの子みたいに……もっと点数を」と他の子と比べたがるのよ。
言ってることが矛盾していることも多いのが親の特徴でもある。
全く、意味が分からない。
どうせ、親なんて子のことを都合の良いロボットにしか見ていないのよ。きっと、そうに違いない。
私がそう思うと、心に段々と怒りが込みあがってきた。むかむかとした、この
気持ち。それを吐き出そうと思いきり、机に拳を叩き付けようとしたところ。
そこで扉をそのまま開けて、彼女が現れた。無防備に入ってくる彼女に最初の一言。
「ちょっと! ノックしてって言ってるでしょ……!」
母親に文句をぶつけたが。彼女はきょとんとした様子で、近くの棚にあるものを置いていく。
「夜遅くまで根詰めてると思ってね……頑張ってね」
そそくさと部屋の扉を閉め、出ていく彼女。私は彼女が置いていったものに目を向けた。
「あっ……」
彼女が持ってきたものはおにぎりだった。ちょうど悩み過ぎてお腹が空いていたので、そのまま手を伸ばし、かじりついていた。
一口で梅に舌が届く。
「すっぱい……うん……」
そのすっぱさを感じながら、ほんの少しだけ自分の怒りを恥じていた。少なくとも私のことをロボットだとは思っていないんだよな、って。
完全に親を悪だと決めつけそうになっていた。そんな自分が恥ずかしかった。
もうちょい、頑張って考えてみようか。親のいいところ。親が私達にしてくれたこと……。
ちなみに書けた作文は誤字だらけでやり直しになったと言うのは、別の話だ。
作文って、難しいよね 夜野 舞斗 @okoshino
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