第40話 もどる

 倫弥の下見は大きな収穫こそなかったものの、倫弥の想定内のものだった。いってもどるだけの話。束の間の夢を見ただけの話。ナズナの影はここにはいない。倫弥もここには用はない。倫弥がここに来ることでなにも変化を与えることができないことを知れば、なにもここに居る意味をなさない。

 

 穴のむこうから倫弥の生の線上に戻る。ナズナの家の穴に入ったあの時まで辿る。倫弥は敷かれた絨毯の上に立ち、戻る場所、戻る生を決める。


 倫弥は倫弥の両親のもとに生まれ、生きなおす。成長し、学び、出会い、別れ、生きる。この過程でも、外的に変化は与えられない。内的な変化は起こり続ける。そして、倫弥はリンの電話を受け、駅前のコンビニに向かい、コンビニの袋を下げたリンを乗せ、ナズナの家に向かう。同じ話をして、同じ行動をして、穴に触れ、閃光に包まれる。闇の世界で崩壊し、創造の世界で意識に選択を迫られる。次の選択では『戻る』を選ぶ。

 

 倫弥はナズナ宅の玄関先に立っていた。ポケットに手を入れる。スマホは置いてきたんだった。どれくらい時が経過したのだろう。あたりを見渡す。太陽は暖かいが、コートを羽織っていてちょうど良い気候。二度あの神の領域を通り、ようやく元の軌道に戻った。

「やっとここか。」

倫弥はインターホンを鳴らす。

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