第30話 倫弥を迎えに

「位置確認できたね。ナズナちゃんちでよかった。人目につく所だったら面倒だったわ。」

そういって沙絵はうさぎを抱えて額を撫でる。うさぎは目をつぶる。そして、穴は見えなくなる。

「うさぎはここに居させるね。」と言って座布団に乗せる。

「後は準備ね。この先はわたしもわからない事が多いから、兄さんに任せることになるかな。」


 誰も何も話せなかった。沙絵以外は。

「ちょっと電話していい?」

沙絵はコートのポケットに手を入れる。

「ごめん。リン、兄さんに電話かけてくれる。忘れてきた。」

リンはスマホをポケットから取り出し倫弥に連絡をとる。

「…リンだよ。かあさんと代わるね。」

沙絵はスマホを受け取る。

「穴あったよ。…そう……ちょっと待って…」

「ナズナちゃん。兄さん、そっち行っていいか?って言ってるんだけど、いい?」

「いいですよ。」ナズナは迷わず応える。

「いいって、来れる?……そうだね……。駅前のコンビニまで来て、リン待たせとくから。じゃあ、あとでね。」

「ごめん、リン。兄さん車で来るから、駅前のコンビニまで迎えお願い。それと何か飲み物と食べるもの、適当に買ってきて。」紗絵はリンにスマホを返し、自分の財布を渡す。

「ナズナちゃん、ごめんね。また急で。」

「いえ。このまま一人になっても心細いので。適当な所に座って下さい。」うさぎの部屋の戸は開けたまま居間へ移る。


「じゃあ、行ってくるね。」

リンは財布とスマホをコートのポケットに入れ、駅前に向かう。ナズナは座布団を四枚持ってきてテーブルの周りにならべ、二人に座るように促す。

「お茶いれますね。」

そう言ってナズナは台所へ行く。沙絵とレイはコートを脱いで座り、コートは脇に置く。

ナズナはお盆にのせて湯呑みと急須を運びテーブルに置いて座布団のない所に座る。

「今、お湯沸かしてるので、少し待って下さい。」

ナズナはなにか言いたそうにしていたが、結局何も言わず立ち上がり、台所に行き、ヤカンのお湯をポットにいれて戻ってきた。

「沸きました。」そう言って急須にお湯を注ぎ、三人分のお茶をいれる。そして、二人の前にお茶を差し出す。


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