第8話 影がないと?

「影がないとね…

引っぱられるんだ。」

しばらく言葉を探しそう言った。まだ言葉を探しているようだ。

「どういうことですか?」

ナズナは尋ねたあと、次の言葉をじっと待っている。

「この世にいて影がないのは、この世に生がないものなんだ。天使とか、悪魔とか、死神とかね。意識的にこちらにいるのもいるし、いいのも悪いのもいるから。」

少しうなずく。ナズナは息をしていないようだ。

「それで、悪いのに引っぱられる。連れてかれるんだ。さいわい君はガードがかたいから、今まで無事だったんだと思うよ。」

「まだよくわからないのですが。」

ナズナはようやく呼吸をし始める。

「それでずっと守り続けるのは厳しいと思うんだ。」

「では、どうしたら?」

ナズナは理解できないまま話は進む。

「影を取り戻せばいいんだけど、どうしようかと思ってね。迷ってるんだ。影がないままだと、この先どうなるかわかんないし。探しても取り戻せるかどうか。」

言葉を選びながら話をしている。

「君に会えばどうするか決断できるかと思ったけど、余計に迷ってね。」

「どうしてですか?」

「君の顔。」

その場がかたまる。

「ごめん。今の忘れて。」

慌てた様子で手を振りながら言った。そして、なにか考えている様子。

「もう少し待ってて。確実な方法探すから。誰も傷つかない方法。それまで君の守りをもう少し固めとく、今でも強いけどね。しばらくは大丈夫だと思う。普段どおりにしてていいから。」

そう言いながら脇にある棚の引出しから何かを取りだす。

「これ連絡先。長谷川です。」

『長谷川倫弥』名前と電話番号だけ書いてある名刺を渡される。

「わたしは鳴海ナズナと言います。これからよろしくお願いします。」

「知ってるよ。」

倫弥はニコニコしていた。

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