第7話 TOMOYA
三人は車に乗りこみ沙絵の兄の家に向かう。
「あした学校早いの?」
「いえ。」
「時間、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。自分のことですし、こちらこそすいません。付き合ってもらって、ありがとうございます。」
レイはまだ黙ったまま。
「レイ。ありがと。」
ナズナは声をかける。
「ごめんね。」
レイは泣きそう。ありがとうの応えにはなっていないが、レイの気持ちは伝わった。
15分くらい走り、建物の脇に入り停まる。窓からもれる光で紗絵とレイの影がぼんやり浮かぶ。
「着いたわよ。ここの2階。」
階段を昇り、ドアの前に立つ。ドアの横には紐に吊るされた木の板。いくつか剥がされた跡があり『TOMOYA』の文字が読める。沙絵がインターホンを鳴らすとしばらくしてドアが開く。
「ごめんね、急に。」
「いいよ。俺が呼んだんだ。」
心地よい声。
「わたしの兄。」
沙絵はナズナを見て言う。
「おお…君だね。話は聞いてる。まあ、あがって。」
潤んだ目、ナズナと目が合うと目を伏せた。
三人は部屋に入ると真ん中にあるテーブルを囲むように座る。
沙絵の兄は「ちょっと待ってて。」そう言ってペットボトルのお茶とグラスを三つ持ってきた。お茶を注ぎ終わり三人の前に置くと空いていた場所に座り唐突に切りだした。
「影見たことある?」
「は…はい。」
「影にもいろいろあるんだよ。」
「はあ…。」
考える間もなく話を続ける。
「光がさえぎられてできる影、身を潜めている影、影として生きる影、死を意味する影、影ってみんな暗いイメージあるだろ?」
「そうですね。」
「けど今君は、その影がなくなって、すごく不安を感じている。」
「はい、まあ、すごくではないですが不安です。」
「それでもと通りの自分に戻りたい。影がある自分に。」
「はい。」誘導尋問みたい。と思いながらもそう応えるしかなかった。
「影がなかったらどうなると思う?」
「影踏みできません。」
「はははっ…そうだね。」
笑わせようと思った訳ではなかったが、笑わせることでナズナは一矢報いた気がした。
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