第4話 お母さんに相談

「あっ。ご飯食べて帰るって言ってなかった。」

レイはリュックを開けて何か探している。

「そうだ、うちくる?」

そう言ってスマホを取りだした。

「いいの?」

ナズナはちょっとうれしそう。

「いいよ。お母さんいると思うから、電話してみるね。」


「お母さん、これから友達…ナズナ連れて行くんだけど、いい?」

「……」

「ごめん。食べた。」

「…」

「そう。」

「…」

「いいよ。なんか飲み物あればいいから。」

「……」

「うん。わかった。じゃあね。」


 リュックにスマホを入れ、財布を取りだす。

「じゃあ行こうか。連れてこいって。コーヒー飲んだ?」

「飲んだよ。」

「うち来るの久しぶりだね。」

「そうだね。」

「寒くなってきたね。暗くなってるし。」

ナズナはコートの一番上のボタンを留める。


 この時期になると日が落ちるのも早い。二人並んで歩き、駅まで向かう。改札を抜け電車に乗り2つ駅を通り過ぎ3つ目の駅で降りる。レイの家もナズナの家もこの駅の近くだ。駅をでて時々言葉を交わしながら二人歩く。街灯に浮かぶのはレイの影。影がないことに気がついてからナズナは影を探していた。太陽の下、ランプの下、街灯の下、ずっと見つからない。窓に姿はうつるのに。


 駅をでてから10分ほど歩くとレイの家についた。下の階は車庫と物置になっている。階段を昇りドアを開ける。

「帰ったよー。」

レイは家の奥にむかって叫ぶ。

「いらっしゃい。どうぞ。」

レイの母が出迎えてくれる。

「こんな時間にすいません。」

「いいのよ。ゆっくりしていってね。コーヒー入れてあるから、こっちにいらっしゃい。それともジュースがいい?寒かったでしょう?」

居間に通される。遠慮がちに立っているナズナにレイは声をかける。

「座りなよ。」

「うん。」

「コーヒーでいい?」

「いいよ。」

「どうぞ、お砂糖とミルクおいときますね。」

レイの母はコーヒーをテーブルに置いてから、お盆をおなかの辺りで抱えニコニコして立っている。

「はい、ありがとうございます。」

「いつも仲良くしてくれてありがとうね。」

「いいえ、こちらこそ。」


「たいへんだったわね。いつもご飯はどうしてるの?」

「作って食べてます。」

「そう、うちにも食べにおいでね。ご飯。遠慮しないで。」

「ありがとうございます。」

ナズナはなぜか泣きそうになる。

「ねえ、お母さん。」

「なあに?」

「ナズナ、影がないんだけど、なにかわかる?」

レイの母は少し驚いた様子をみせた。

「影がないの?ちょっと見ていい…立ってみて、あら、ほんとね。」

レイの母は腕を組み考えている。

「いつからないの?」

しばらく考えそう質問した。

「わたしが気がついたのは、五月頃。で、今日ナズナに教えた。『影ないよ』って。」

レイが応える。

「はい。そうです。」

ナズナは申し訳なさそうに応えた。

「なんで気がついたのが五月で、教えたのが今日なの?」

レイの母は呆れている。ナズナのことも呆れられているような気がした。

「ナズナちゃん。その頃ってなにかあった?」

レイの母は何か知っている様子だ。

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