第5話 あの日

「あの日の事、聞いて大丈夫?」

あの日のこと。それでナズナにもすぐわかること。

「大丈夫です…。あの…。」

「ゆっくりでいいよ。」

紗絵はやさしく声をかけ、レイは黙って聞いている。


「墓参りに出かけたんです。父と二人で。家をでてお花とお菓子を買ってお墓に。そのあと、桜並木に行って…。綺麗でした…桜。」

ゆっくりと記憶を辿り話し続ける。

「ご飯食べて。夕御飯食べたんです。一緒に二人で。それから…高速道路にのって帰ってたんです。車で。夜で…。トンネル入って…前のランプが赤く…光ったの…それで…前の車に…バンッてなって…真っ白になって…ね…目の前が…そして…またドンッとなって…もう一回ドンッてなって…とうさんみたら…おとうさんが…運転してたんですけど…だいじょうぶってきいたんですけど…なんかいも…なんかいもよんだのに…ね…それから…てを…てをつかんだんです…そうしたらね…とうさんが…もう…うっ…うっ…どう…しよう……」

ナズナの声も体も震えている。

「いいよ。ありがとう。」

「すいません…」

「いいのよ。ごめんね。」


 しばらく誰も話せなかったが、ナズナが意を決したように話だした。

「救急車に乗ったのも覚えてなくて、目が覚めて、気持ち悪くて、どこだろうと思って、病院のどこかだと思うんですけど、おばちゃんがいて、夢だったかな。また寝ちゃったと思います。そのあと検査して、なんともなかったんですけど、なんかあったら困るからって、お医者さんが言ってて、入院しました。憶えていないこともあって…ごめんなさい。」

「謝らなくていいのよ。話してくれてありがとう。ごめんね。影のことは調べてみるわ。ゆっくりしてってね。帰りは送るからね。」

「ありがとうございます。でも大丈夫です。近いので。」

「遅いから女の子一人で帰せないわ。送るわよ。」

そう言ってレイの母は振り向かずに居間から出ていった。

ナズナは気がぬけたように黙って座っていた。レイは口をおさえて嗚咽をこらえていた。

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