第3話 影とハンバーグ

 少し道をそれアーケード街に入り二人は食事ができる店を探している。

「ここにしよ。」

レイは看板を指差しナズナを見る。

「いいよ。」

ドアを開き二人は中へ入り、入口に立ち店内を見渡す。

「あそこ座ろう。」

レイは窓側の奥のボックス席を指す。向かい合って座り、隣にリュックを下ろす。外には人はまばら。互いの姿が窓に映る。

「決めた?」

「うん。ハンバーグセット。レイは?」

「カニクリームコロッケセット。」

メニューを閉じると店員が近づいてきて、二人のテーブルの横に身をかがめる。

「ご注文お伺いしてよろしいでしょうか?」

「ハンバーグセットとカニクリームコロッケセット。それとコーヒーでいい?コーヒーふたつ。ホットで」

レイが店員に伝える。

「食後でよろしいでしょうか?」

「いい?」

レイはナズナに尋ねる。

「はい。」

ナズナは店員に応える。


「ところでさあ。確かめたいんだけど。電気の下でさ、こう手をかざすでしょ。そうしたら影が映るじゃない。やってみて。こうやって狐とか。」

レイは手の届きそうな位置にあるランプに手をかざしながら狐の形を作る。レイの後にナズナも同じように手をかざす。

「映らないよね。やっぱり。」

レイもまた手をかざす。レイの手の影は映る。

「どうしてこれに気が付かなかったのかな。影がないってわかったら、すごく気になるのに。」

ナズナはランプの下で手をヒラヒラとさせている。


 二人はしばらく窓の外を眺めていたが、思い出したように教科書を出したり課題のプリントに目を通したりして時々言葉を交わす。やがて料理が運ばれてくる。二人はプリントと教科書をリュックにしまう。

「おまたせしました。」

料理がテーブルに並べられる。

「おいしそう。」

「いただきます。」

二人は手を合わせてからナイフとフォークを持ち食べ始める。

「子供ってハンバーグ好きだよね?」

レイはナズナに言う。

「わたし子供じゃないもん。それにハンバーグ嫌いな子供もいるよ。」

ナズナは反論する。

「かもね。じゃあラーメンは?」

「みんな好きじゃない?わたしは何でも食べる。カニクリームおいしそうだね。」

「おいしいよ。食べる?」

「いいの?食べる!」

「おひとつどうぞ。」

レイが皿を差し出すとナズナは遠慮せずフォークでコロッケを刺し、自分の皿にのせる。


「ハンバーグどうぞ。待ってね。」

ナズナはハンバーグを一片大きめに切り分けている。

「ありがとう。でもいい。実はハンバーグ苦手なんだ。」

「えっ?うそっ?」

「ほんと。」

「どうして?」

「どうしてって、前にね。熱が出て具合が悪いことがあったんだ。風邪ひいてたのかな、ずっと寝込んでて。その時ね、お母さんがハンバーグ作ってくれたの。」

付け合わせのグリーンピースをフォークで刺して話を続ける。

「なんでこんなときにハンバーグって思ったけど。栄養つけさせようって思って、うちの母親なりに考えて作ったんだと思ったら、食べないわけにはいかなくてさ。食べたんだ。大きなハンバーグだったんだけど全部。」

話しながら一粒パクリ。モグモグ。

「そんな時って胃腸も弱っているでしょ。だからますます具合が悪くなって。それ以来食べれなくなったんだ。」

話が終わるとカニクリームコロッケを半分に切ってモグモグ。

「そうだったんだ。」

ナズナもレイにもらったカニクリームコロッケを半分にして食べる。

「見るのもいやだったんだけど、今はもう大丈夫。見るのはね。」

レイはハンバーグを見つめる。

「ハンバーグ食べれないなんて、影がないことより辛いね。そうだったんだね。かわいそう。」

ナズナはレイの顔をじっと見ながら言った。悲しそうな顔をしているが、うれしそうにも見える。

「そこまでかわいそうじゃないよ。」

「だってハンバーグは月に一回は食べるでしょ。影踏みなんて何年かに一回やるかやらないかなんだから。」

「どうにかして食べれるようにならないかしら。」

真剣に考えているようだ。

「いいよ。無理すると余計食べれなくなる。」

「一口食べてみて、おいしいから。」

「いや、いまはいい。また今度にして。」

「じゃあ今度ね。」

「う…うん。」


 食事を終え、二人は影やハンバーグの事には触れず。他愛もない話をした。

「おまたせしました。」

店員は程良いタイミングでコーヒーを運んできた。コーヒーを飲みながら、二人はまた他愛もない話をした。

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