第2話 どうする?

 しばらく二人黙って歩いていたが、

「影がないなんて、なんだか悲しくなってきた。」

そう言って、ナズナは口をへの字にして涙ぐんでいる。

「大丈夫だよ。自分でも半年以上も気が付かなかったんでしょ。服だって一年着なかったら、そのあともほとんど着ることないでしょ。それと同じよ。」

レイはどうにか慰めようと言葉を掛ける。

「服とは違うよ。このあと使うことあるかもしれないじゃない。影踏みするかもしれないし。」

「だってさっき。影踏みしないって言ったじゃないの。大丈夫よ。きっとまた戻るから。」

「影どこに行ったのかな。」

うつむきながらナズナはつぶやく。

「探してみる?」

「どこでなくなったのかわからないのに?」

「とりあえず、こころあたりの場所を探すのよ。そうだ、警察に届いてるかもしれない。」

「警察に影が落ちてましたって届ける人いるかしら、聞いたことないよ。」

ナズナは影探しには消極的だ。

「病院はどうかな?」

レイの案について、二人は少し考える。

「きっとわからないよ。」

「だろうね。じゃあどうする?」

「もう影いらない。」

少し間を置いてナズナは結論を出す。

「そうね。いまは放っておくしかなさそうね。」

レイは街路樹を見上げ、落ちてくる葉をつかもうとする。ナズナは歩道のブロックの色が赤っぽい部分を避けながら歩いている。時々、落ちた木の葉が歩道から車道へ飛んでいく。コートを着ていても空気の冷たさが感じられた。

「また考えよう。どうするか。」

レイは遊ぶように歩いているナズナに声をかける。

「うん。ありがとう。」

ナズナはまっすぐ歩きだす。時折すれ違う人たちを交わしながら、駅に続く道を二人並んで歩いていった。

「おなかすいたね。」

「すいたね。」

「ごはん食べて帰ろうか。」

「うん。」

ナズナに笑顔が戻る。

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