第6話 冒険者ギルド ③

 案内された場所はちょっとした斜面になっており、野草の採取に適した場所らしい。

「これが薬草です」とクロエが、草を一つ手に取り皆に見せる。

「「おおーっ」」

 皆からなぜか歓声と拍手があがる。

 採取依頼に失敗も何もない。ギルドで買い取りをしてくれるので採取する量が少なければ報酬が減るだけの事だ。質や量などが買い取り額に関係するので、良質な薬草や毒消し草などを持っていけば買い取り額が増える。

 冒険者はこの手のちまちました仕事を嫌うので人気がなく、薬草類が不足しているので野草の採取の依頼は年中問わずされていた。


 アラタはステータス画面に【薬草図鑑】を開いて見て回った。薬草と一口に言っても種類が沢山あるのだ。その中でも価値の高い物を順に選んで採取していく。

 皆から離れて黙々と作業する。一人、自然の中で没頭する事が出来た。

「アラタ、どうですか?」

 クロエとスズがアラタの隣にしゃがみこんで来た。

 両隣を美少女に挟まれて、ドキリとしたアラタである。採取した薬草類を見せた。クロエも薬草の細かい種類までは把握しておらず、アラタの薬草類を見てもピンと来ていなかった。

 アラタはスズの採取した薬草を見せてもらい、「これはいい。これは価値がない」と選別していく。

「アラタって詳しいの?」

「少しだけ」

「へえ」

 そう言った彼女の笑顔にアラタは思わずみとれた。恥ずかしくなり視線をそらしたその先、スズの足元を見るとスカートの下は生足だった。

「足は虫に刺されたりしないのか?」

「これ? スカートの裏に虫避けの魔石が縫い込まれてるから大丈夫」

 スズはスカートをペロリとめくって見せた。

 天然か? こいつ!

 太ももが露になる。アラタはスカートに縫い付けられた魔石など見ていなかった。白くプルンとした柔らかそうな太ももに視線がロックオンである。

「アラタ、どこ見てるの?」

 クロエがジト目でアラタを見ていた。真剣な表情で太ももを見ていたらしい。

「え? 太ももだけど?」

 アラタも開き直って、それが何か? という感じで返事した。クロエは「うぐっ」と真っ赤になる。

「アラタってエッチなの?」

 スズは男性のスケベな視線に嫌悪感を抱かないのか、さらりと聞いてきた。

「そうかも。いや男は皆そうだと思う」

「そうなんだ」

 スズは可愛いが、表情に乏しく感情が読めない。

 なんだ、この会話? アラタはスズを計りかねた。至って普通に返されて、スズに軽蔑されたかどうかも分からないのだ。

 ―と「あ、いたいた、スズ」と別の女子の声がする。

 見ると斜面の上方向に横峯ヒナコが立っていた。

 アーモンド形の目にふっくらとした唇。目鼻立ちは整っている。美人であるし、可愛さもある。長い黒髪がさらさらと風に揺れている。スタイルは抜群で長い脚がスカートから覗いていた。おそらく生まれた時から、可愛いと言われ続けてきたのだろう。

「へぇ」

 ヒナコはスズの横にいるアラタを見ると意味深な視線を送る。

「アラタが薬草に詳しいから見てもらってたの」とスズが言った。

「やるじゃない。アラタ―じゃあさ、私のも見てよ」

 そう言うとヒナコはアラタの前にしゃがんだ。斜面なのでアラタが少しヒナコの顔を見上げる感じになった。

 薬草の入った袋を地面に置いてアラタに見せようとするので、視線を落とすと足の隙間から、白い何かが!

 あれはまさかパンティー……?!

「ち、ちょっと、どこ見てんのよ!? 薬草を見てって言ってんのよ! 薬草!」

 真剣に両足の脛の隙間を見ていたら、足をくねっと交差させて、スカートを手で押さえてしまった。

「あぁ……ゴメン。あまりに無防備だったから」

「アラタはエッチなの」とスズは何のフォローにもならない事を言った。

「アラタ……」

 クロエがゴミでも見るような目でアラタを見ていた。

「バカじゃないの?! 変態!」

 ヒナコは鼻息荒く怒っていたが、それでもアラタが薬草に対して適切なアドバイスをくれるので、ギャーギャーとやかましくしつつ四人で野草を採取したのだった。


 その頃、武内ツバサと設楽タカヒトは、東ミクと猪熊トウカと野草の採取をしていた。

 だが、ツバサとタカヒトはアラタのグループが気になって仕方なかった。

 一方、琴子とアツシは二人仲良く採取をしている。だが、薬草の知識が全くないのだから草を適当に摘んでいるだけである。

 賑やかな勇者一行を他所に、新規加入の冒険者は、採取をせずに周囲の警戒をしていた。結界石のおかげだろうか、魔物に遭遇する事はなく、無事に依頼を終える事が出来た。




 ◆◆◆


 冒険者ギルドで集めた薬草を換金してもらう。

 アラタは一〇〇リギル(リギルはこの国の貨幣単位)。

 スズは八〇リギル。

 ヒナコは六〇リギル。

 クロエは九〇リギルで、自分でも驚いていた。

 後のメンバーは五リギルとかそんな感じだった。

 リギルの価値は一回の食費が三リギルから十五リギル程度と考えればいい(一般的な数字であるから、当然もっとお金のかかる食事もある訳で一概には言えないが)。

 アラタの稼いだ額は、採取クエストとしては破格の成功報酬であった。この稼ぎだと、命懸けでモンスターと戦わなくても、生活出来るのではないか?

 なぜ皆この依頼をやらないのか。

 アラタは不思議でならなかった。


 その後、新規加入メンバーとの親睦会をする事になった。目下のところ琴子の側にいたくないアラタはそれを断った。

 去っていくアラタを見て、ツバサは「チームがまとまらないな」と愚痴をこぼした。

 だが、ほとんどの者はアラタを気になどしていない。

 その一方でスズがアラタの後ろ姿を見ていた。ヒナコがそれを見て、スズに小声で尋ねる。

「何? アラタの事、気になってんの?」

「うーん、分かんない」

 スズは踵を返し、皆の許へと歩き出す。

 分からないのは、アラタがどんな人か分からないという意味か、それともスズ自身の気持ちの事か?

「疎いんだか、何なんだか」

 ヒナコはスズの後を追いかけた。

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