第13話 良い事言う人々④ あてにしてはいけません

「人生ね、あてにしちゃいけません。あてになんぞするからガッカリしたり、悩んだりするんです。あてにしちゃいけません。あてにしなきゃ、こんなもんだ、で済むじゃありませんか」

                     (「大往生」永六輔 岩波新書)


例えば遺産相続で親が一生懸命介護をやった自分ではなく、たまに来て茶飲み話をしてオムツの一つも替えようとせずに、そそくさに帰る妹夫婦のほうが好きだった。

一生懸命、親の為にがんばっているのに、妹夫婦に面倒見てもらいたかったわねえとイヤミを言われる。でもぐっとこらえて食事の用意をすると、食べさせ方が下手だと文句を言う。寝たきりの母親に夜中に起こされ排泄物にまみれたオムツを交換させられた。

職場からなんどケースワーカーの緊急コールで呼び出されただろう。その度上司に頭を下げて、仕事を押し付けられる同僚の白い目に耐えたのだ。

認知症を併発して、フラフラと外出してスーパーで勝手に品物を持ちだして警察のお世話になったこともある。

夜中にいきなり「殺される」と叫んで近所から通報され警察がきて、保護者虐待の疑いをかけられる。それにも関わらず遺言書で母親は遺産を妹夫婦の方に譲ってしまった。


あなたは歯ぎしりして怒りますか。それとも何年も何年も弁護士にお金をかけて裁判しますか。相続問題はたいてい骨肉の争いを産みます。勝った処で憎悪に費やした時間は戻らず、兄妹の絶縁という悲しい結末を迎えます。幼少時に一緒に仲良く公園で遊んだ妹とですよ。


遺産なんて最初から無かったと思えばそれで済む話ではないですか。あるとおもうから悩みと憎悪を産むのです。


昔赤ん坊の頃、泣き喚きながらお母さんにオムツを替えてもらった、同じことをしたんだと思えばすむ話でしょう。

あなたは赤ん坊の頃、すまないねえと思いながらオムツ交換してもらったのですか? 年少の頃日々感謝しながら母のご飯を食べていたのですか?

違うでしょう。母が自分の介護に感謝してもらえなくても、自分の昔の事考えたらどっちもどっちでしょう。


遺産相続だけでなく喪失の悩みにはすべてこの考え方が応用できます。そしてそれは人生の奥義の一つでしょう。

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