殺し屋と標的の計画

怜のプランはこうだ。


まず、当初から予定してたチャンネル登録者数・小説の書籍化冊数に達したところで自ら作詞作曲を行った楽曲の動画をYoutubeに上げる。コレーアカウントではまだ『歌ってみた』動画しか上げていないので、そのオリジナル楽曲の出来次第ではチャンネル登録者数も相まってかなり話題になることが予想される。

それをきっかけに知名度が一気に上がり、多くの人の注目を浴びることになるタイミングで二つのYoutubeチャンネルとそれぞれの小説が同一人物によるものだと公表する。その時に素顔も公開する予定だ。

そんなことをしたらどうなるか。

もちろん由美は社会的に怜を抹殺しようとする。1つ目のアカウントが潰されたときのように。


だが、当然ながら前のように簡単にはいかない。既に何作品も書籍化され、いくつかのゲームはもはやプロと遜色ない腕前。歌い手としてもかなり熱狂的なファンが多数いる。


それに、由美が怜の不正や不貞などのデマを挙げたり、メディアや雑誌、事務所の圧力なんかを利用して潰そうとしてくるのは予想済み。簡単に対策できる。


「僕を社会的に殺すことが難しいと悟った姉は今度は僕を抹殺しようとしてくるはずです」

「そこで私の出番というわけですね」

「そうです。できれば僕を殺しに来た人は殺すのではなく生かして拉致り、依頼主に繋がるような情報を引き出していただければと」

「随分と難しい要求を…」


何故かは知らないが、由美は怜を殺すこと、いや、に執着している。そんな相手が突如として有名になるようであれば、焦って隙を見せる可能性が高い。それに、逆に警戒して殺し屋を送り込むのを躊躇ってくれればそれはそれでまた別のプランに繋がる。


しかし問題は、プルートにとって殺すだけなら簡単。追い払うのも簡単。だが、技術の練度も分からない相手をハナから生け捕りにする前提で戦うというのは難易度が桁違いだ。

今回くらい実力差があれば簡単だが、基本的に殺し屋同士の戦いというのは殺すか殺されるか。始めから相手を殺す覚悟でやらないと自分が殺されるのだ。


「できなければそれで大丈夫です。プルートさんみたいにサイトから依頼を受けている人ならメールの送信元とかを追えますからね」

「うーん…それは難しいと思いますよ?」


例えばプルートの場合、自分だけでなく依頼主の個人情報などを守ることも大切なのでいくつか海外のサーバーを経由させたりして絶対に依頼主を特定できないようにしてある。

直接殺し屋に会って依頼をする馬鹿なんかいないだろうし、依頼を請け負うためのサイトを作っていない同業者はどうしているか…。


「斡旋業者…って、聞いたことあります?」

「斡旋…ということは依頼を一度請け負って殺し屋に仕事を振り分ける業者…ですか?」

「ええ、大体はその通りです。私ぐらいできればいいんですが、パソコンやらにそこまで詳しくない人もいますからね。そういう殺し屋や依頼人が利用するのがこの斡旋業者。万が一失敗しても依頼人にたどり着かれる心配がなくなりますしね」


斡旋業者の者が依頼を受理し、そこから更に殺し屋に依頼を。その斡旋料で利益を得る、いわゆる中継なかつぎだ。


「で、恐らくですがその斡旋業者を通して―――」

「残念ながら、それはあり得ません」


怜がプルートの推測を遮る。


「もし姉がその業者を利用しているのなら、どうしてプルートさんに僕名義で依頼が来るんです?」

「あっ…」


そう。もしプルートが言うように由美が斡旋業者を通して怜に殺し屋を送り込んできているのなら個人でサイトの運営や諸々の準備や後処理を行っているプルートに直接依頼が来るのはおかしい。

そういう業者がいるのは知っているし、実際にプルートのサイトにも何度か彼らから依頼が来たことがある。


「さっき言ったように、姉と兄は共犯なんです。ですが、僕の予想では兄はただ姉が送り込んできた殺し屋を捕まえて手柄を上げているわけではないんです」

「というと?」

「そもそも姉に殺し屋を紹介しているのが兄なのではないかと。表向きは普通のアイドルである姉がそんなサイトにたどり着けるとは思えない。プルートさんだって『殺しの依頼はこちらまで!』みたいなタイトルのサイトでやってるわけじゃないでしょう?」

「…警察関係者のお兄さんなら、捜査とか事情聴取なんかでそういった情報が入ってくる可能性はあると?」

「ええ。それに、もし仮に彼らがプルートさんを捕まえてあなたが依頼主の情報を吐いたとしても僕名義で依頼していれば自分たちに捜査の手が及ぶことはありません。まさか実の弟を殺すために100万も出す馬鹿はいないでしょうから警察も僕が死ぬ前に金を使い切ろうとしたとでも思うでしょう。万が一捜査線上に彼らの名前が上がったとしても内部への圧力とアイドルとしての知名度を利用して簡単に疑いを晴らすことが可能です」


精神に傷を負ってしまってからというもの、怜はあまり他の人間と深く関わりを持ってこなかった。

人生の目的が姉への復讐だし、そもそも他人と話したり遊んだりしたところで『楽しい』という感情がほとんど生じないから。


なので、誰かに依頼を受けた殺し屋が怜を殺したら捜査の目は確実に肉親である由美と孝之に向くだろう。もちろんそんなことを明かす馬鹿な殺し屋はいないはずだが、万が一ということもある。そうなった時にその依頼主が怜本人だとなれば彼らは口裏を合わせて適当な証言をするだけで疑われることはない。


怜は、そこまで読み切った上でカウンターとなる計画を立てているのだ。

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