殺し屋と標的の2つ目の仕事

必死に「なんでもないです」と繰り返すプルート。そのプルートに、先ほどの質問にまだ答えを返されていないことを思い出して再び問いかける。


「そういえば、銃弾をナイフで弾く方法教えてもらえませんか?」

「本気で言ってます?割と簡単なんですけどね…」

「常識って知ってます?」

「あなたに言われたくないんですけど!?ていうか、相手の目を見れば大体どこを狙うかが分かるんですよ。わざと目線を逸していたとしてもそれぐらい看破できなきゃ殺し屋なんてやってられません。で、相手の指を見ればタイミングが分かります。後は勇気と反射神経の勝負ですよ」

「それを『簡単』と称する人が世界にどれだけいると思ってるんですか…」

「あ、私のナイフは特別製なんですけど普通のナイフでやろうとしたら角度次第では折れちゃったりするので気をつけてくださいね」

「よく考えたらリアルでこんな知識を活用する場面なんて絶対来ませんよ…」


怜は諦めたように嘆息する。予想外の来訪者の連続に話が脱線してしまったが、プルートは怜の仕事について説明を受けていた最中だったことを思い出した。


「話を戻しましょう。あなたの仕事について、小説家の方は一応分かりました。あとは実況者と…歌い手ですか?」

「ああ、そうでしたね。歌を上げるアカウントとゲームの実況やら生配信、雑談なんかをするアカウントがありまして」


そう言って、怜は奥の部屋に戻ってパソコンの前で何やら操作し、二つのYoutubeチャンネルを表示させる。


「『エア』と『コレー』ですか」

「エアはバビロニア神話に於ける神で、水とか叡智、知識なんかを司っています。こちらはゲーム用のアカウントです。で、基本的に歌ってみた動画を上げてる方がコレーです。コレーに関してはね、僕にもこの名前にした理由が分からないんですよ」

「わからない?」


冗談には聞こえない怜の言葉に形の良い眉根を寄せるプルート。


「天啓みたいなもんですかね?元々は一つのアカウントで全部やる予定だったんですけどある日目覚めたらアカウントを分けて『コレー』って名前でやらなきゃいけないような気がして」

「そんな理由で決めるんですか!?」


予想外の答えに思わずツッコミを入れるプルート。


「ちなみに、コレーの意味は?」

「ハデスの妻であるペルセポネーが冥府に連れて行かれる前の名前らしいです。意味は『若い娘』」

「歌と何の関連性もない上に女性の名前ですか…。別の名前にしなかったんですか?」

「別に名前なんてどうでもいいですからね。どんな馬鹿みたいな名前だろうと内容さえよければ登録者数は増えるんですよ」


活動名というのはその仕事の成果にかなり大きく影響するものだが、カッコいい名前や魅力的な名前が正義というわけではない。

お笑い芸人がいい例だ。どういう経緯でそんな名前になった!?という感じの馬鹿みたいな名前なのにその名前が売れている面白い芸人はたくさんいる。

逆に、スカした名前でやっている人ほど燻っていたりもする。


「…一応、分かりました。で、これでどうやってお姉さんに復讐を?」


そう、大事なのはそこだ。怜の仕事内容でも名前の由来でもない。


「姉が築き上げてきた地位を更に上から叩き潰し、人生を滅茶苦茶にするんですよ」

「…国民的アイドルを叩き潰すって、どうやって…?」


自信満々な怜の言葉にプルートが疑問符を浮かべると、次いで怜が見せてきたのはそれぞれのチャンネルの登録者数。『エア』アカウントは54万人で、『コレー』アカウントは82万人。


「…かなり多いですよね、これ」

「そうですねぇ。こう見えて僕、顔出ししてないだけで実は結構な有名人なんですよ」


少し誇らしげな笑みを見せる怜。プルートは一瞬「イケメンなんだから顔出しすればもっと登録者増えそうなのに…」と思ったが、顔出ししていないのは姉の由美にバレるのを防ぐためだと思いなおす。

それに、プルートにはチャンネル登録者数の相場なんかよく分からないがつまりは80万人を超える人間が怜の歌や実況に興味があるということだろう。


「なんとなく怜さんの考えてることが分かってきました。こっそりお姉さんより有名人になってから叩き潰すんですね?」

「流石です。具体的に説明しますと―――」


そう前置きし、怜はプルートに自らの人生を懸けた計画を語った。

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