第三話 塗り潰される者
辺りは瓦礫が山の様に転がっており所々で火が付いて燃えていた。
辺りは暗闇に包まれていたが、自分達は確かにここに有ったという事を主張するかの様に建物の残骸達はその体を燃やし続け、辺りを照らしていた。
(何で俺は地面に転がってるんだ?力も入らない。目を瞑っているのか?わからない。何か身体から抜けていってるみたいだ、、、、、、。寒いな、、、、、、俺は何を、、、、、してたっけ?、、、、眠い、、な、、、、、。
このまま眠り、、いや、、ダメだ。みんなは、、、どこだ。)
自分は何故ボロボロになって倒れているのか?曖昧な意識を呼び起こす様に目を開いた。
そして目を開いて最初に映ったモノ、それは理不尽な迄に明確な死だった。
十五のすぐ側に落ちているのは多分、テツだろう。
自分が今の暮らしを手に入れた時に最初に会った家族ともいえる存在。
這い上がった自分を差別することもなく自然に接してくれた男の無惨な亡骸がそこには有った。
顔の半分がなくなっており、体も半分になっている。そこら中にある瓦礫に着いた炎の灯りに照らされて見えるのは吐き気を催すほどの夥しい量の血だ。誰が見てもわかってしまう。
確実に死んでいると、、、、。
ああ、やっぱりと十五は思った。悲しさや悔しさよりも先に自分の想像した通りになってしまった事を冷静に受け止めていた。そして自分の体の状態を確認していく。
(何とか死にはしてないとはいえ、時間の問題だな。脇腹にデカい穴が空いてやがる。
クソっ!!右手がねぇし右目も見えねぇ。足は、、、、何とか動くな。運が良いのか痛みがねぇのが救いか、、、。
テツ、、悪りぃがお前はそのままにしてくぞ。その代わりヒナとキリは俺が何にかえても、ここから逃がすから勘弁してくれ。俺もじきに死ぬから待っててくれ。)
十五は傷んだ体を奮い立たせ何とか立ち上る。二人を必ず助けると心に誓い、足を引きずりながらも先を急いだ。
漠然とだがそれと同時に、彼が生まれて一度も感じたこともない感情も溢れていた。そしてこう思った。
(俺の大事なものを壊しやがって。憎い。アイツらは敵?、、、、、敵は許せない、、必ず必ず必ず必ず必ず、、、必ず殺してやる、、、、、、、、、と。自身が精神的にも肉体的にも変質していっている事に気付かぬままに。)
十五の中で一つ解放される。
ーーーーーーーーーーーーー
十五が奇妙な白日夢を見た後、気を取り直して先を進み15分程して区画の中心部が見えてきていた。先程までの風景とは一転して全く逆の光景が目に飛び込んできた。
「これはこの区画に有った建物か?これは、、、この区画にある建物全部がココに集まっているのか?」
この世界の街は六角形の形に巨大な壁で覆われており、その中で地域ごとに分けられている。街の規模としては大体人口十万人程でそれなりのに栄えている方だ。
三人がいるこの第三市場はこの街の二番目に栄えている商業区域で割りに広く作られていた。
だが今は中心部から円を描いて瓦礫が塔の様に乱雑に積まれ、火の手が上がっていた。
しかしそこ以外は何も無くなっていて真っ暗な闇が広がっているだけだった。まるでこの中心部だけが神聖であるかのように。
「明らかに自然に起きねぇよ、こんな事。信じられねぇが人為的だコレは。」
「こっこんな事出来る人なんているの?昨日まで普通に有ったのに、、、、、、、」
「俺にもわからねぇよ。[シリアル]の軍隊共でも来たのかも知れねぇが、、、、。こんなの想像もできねぇよ。とにかくヤバい事になってるのは確かだ。テツわかってるよな?キリ見つけたらさっさと逃げるぞ。」
「ああ。わかってる。行こう。」
三人はゆっくりと警戒しながら進んで行く。進んでもやはり人に出会える事は無かったが少しして不意に先程とは違う光景に出くわした。それは瓦礫の代わりに、人の死骸がうず高く積まれ燃えていた。そんな不気味なオブジェが数10とある光景に三人は息を呑み固まってしまう。
そして出会ってしまったのだ。その光景を作り出した存在達に。
オブジェの影に隠れて様子を窺うと、そこに居たのは異形とは呼べない自分達と同じ人間が二人。自分達より上等な身なりをしているが、姿形は変わらない人間のはずだった。しかし先程から行っている行動は、明らかに常軌に逸していて吐き気を催すほど凄惨な行いだった。少なくとも十五達の感覚においては。
三人は言葉を無くすしか術はなかった。
一人は長い金髪を靡かせながら、鼻歌混じりにその場所に連れて来られたであろう生存者を一人ずつ引き摺ってきては、軽々とその細腕で、生きたまま体を引き千切り、意味不明なオブジェを作り上げていく。
犠牲者の泣き喚く声がまるで作品における喝采であるかの様に上機嫌に笑みを浮かべながら。
一人は一目で大男だと分かる体格をしていた。女達だけを並べ一人ずつ体を貪る様に犯している。その犠牲者に飽きた後は、なるべく苦痛に泣き叫ぶ様にゆっくりと殴り殺してゆく。傍には犠牲者たちの骸が、少なくとも数十体は転がっている。
どちらも共通して言える事は、まだ生きている者が残っている限りは双方の凶行と言える行為は終わる事はないのだろう。まだ生かされている者達は、ただただ絶望感を抱きながら自分の順番が来るのを待っている事しか出来ないのだろう。この世界の住人達には宗教という概念は存在していない。ただ存在したのなら誰もが口を揃えて言うだろう。コレが地獄なのだと。
凄惨な光景に思わずヒナが声を上げそうになったが、辛うじて十五達が押し留める。安堵した後また様子を窺っていたテツが大男の次の行動に目を見張った。作業を終えた男が、次に連れて来たのは妹のキリだったのだ。
テツは居ても立っても居られず大声で叫び飛び出して行く。
「貴様、キリからその手を離せっ!!」
「あ〜ん?新しいのが来たかよ。何だよ男か。ボレ、お前にやるよ。」
男はそう言って関心を失くし、自分の行為に没頭する為、絶望しきって目の虚なキリの服に手をかけた。
テツはその場に落ちていた、大きな瓦礫を手に取り男に走って向かって行く。
「クソっ!!ヒナ、お前は隙を見て急いで逃げろ!!」
「でっでも!」
「見りぁわかんだろ?アイツらは化け物だ。このままじゃ全員がオモチャにされるぞ。俺がテツ達を連れて行く。お前がいたら逃げられるもんも逃げられんねぇ!!先に行くんだ。口答えは無しだ!!」
「、、、、、、、、、、、、、、、」
「迷ってる暇はねぇ。言う事聞いてくれ。俺が頭良いの知ってるだろ?上手い事逃げる策は有るから心配すんな」
「わかったよ。ホントに無理はしないでよ。」
「ああ。大丈夫だ。俺が飛び出した後に様子見ていけ。ギルドの所で合流だ。」
「うん。気をつけて、、、、。」
十五は一度大きく深呼吸した後、足元の石を拾い、意を決して飛び出す。
テツは手に持った瓦礫を大きく振り上げ、大男に殴りかかって行く。
「あん?男は相手にしたくねぇもんだが、まぁいいか。」
大男はキリから手を離し、余裕の態度でテツに向き合う。
「カレアンカ、もう一人いるよ?僕、今調子良いんだ、創造がとても捗ってる。だからソッチで処理しといてね」
「カッ!!創造?何がおもしれぇんだか?女を犯して殺す方がよっぽど良いと思うがなぁ。」
大男は、ボレと呼んだ男に顔を向けいて、周りで起こっている事に全く関心を払っていない。
テツはソッポを向いているカレアンカの顔に向かって、瓦礫を思い切り叩きつける。だが、、、、、、、。
「ん?人が話してるってのに。コレだから男は嫌になる。」
かなりの衝撃があったはずだが、カレアンカには傷一つ付いておらず、まるで気にしていない様子。
「なっ」
「テツ一旦下がれっ!!」
十五は後ろから警戒しながら声を掛ける。
「ハイハイっと。サッサと消えろ。」
そう聞こえた時、二人に向かって光が走り、凄まじい爆風と衝撃が襲った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
先程の事を思い出しながら、十五は、ボロボロの体でキリを助ける算段を付けながら進んだが、随分と吹き飛ばされてしまった様で、急いで戻るという選択肢しか出て来なかった。
(正面から行っても今度は運は続かねぇ、確実に死ぬ。だが時間もねぇ、、、クソっ、どうする?考えろ何か考えろ。クソッタレ!!)
状況を打破する案が出ないままも、キリの安否と自分の体力を鑑みて、先を急ぐしかない。
やっとの思いで辿り着いた場所で、十五はどうしようも無い現実を突き付けられる事になった。
打ち捨てられた数体の遺体の中に、仲間の妹を見つけてしまったから。
身体中を汚され、両腕両脚を無造作にもがれ、恐怖と苦痛の中まるでゴミの様に捨てられ、死んでいた。
十五は、キリを抱き寄せ、少し開かれたままの目を、震える手で閉じる。
少しでもマシな所でと、倒れている大きめな柱の上に寝かしてやり、自分の上着を掛けてやる。
もうやれる事は無い、間に合わず助けられなかった。ならばもう、やりたい事は一つだけ。
自分がどうなろうが、何が何でも奴を殺すのだ。十五の頭の中はそれしか考えられなくなっていた。
残った痕跡を見つけ進み始める。
十五の中でまた一つ解放された。
この破壊され尽くした場所で、ぽつんと一軒だけ崩壊を免れている。
それなりの広さがあり以前は、集会所か何かだったのだろう。
尤も屋根も壁も吹き飛んでいて、骨組みしか残っておらず辛うじて建物と判断出来る程度だが。
ボレはその中に椅子とテーブルを並べ、ゆったりとお茶を飲んでいる。
カレアンカの方は、その獣欲も収まったのだろう。傍らには哀れな被害者達が積まれているが、自分の持ち物であろう、歪な鈍器を地面に座り眺めていた。
ボレの方を振り向きもせず、カレアンカは尋ねる。
「しかし、歯応えが無い仕事だと、そうは思わんか?ボレよ。」
「あれだけ自分の欲を曝け出しておいて、よく言うよね?君と初めて仕事したけど[色欲]の連中は、みんなそうなのかい?」
「ハッ。テメェも好き勝手やってたじゃねぇか?俺こそ聞くが、[傲慢]の奴らはどれも気狂いなのか?」
「君みたいな奴に、僕らの崇高な行いが、分かるとは思っていないよ。」
「アアッ!!何だと貴様っ!!」
ボレの小馬鹿にした様な物言いに、カレアンカが反応し、お互いが剣呑な雰囲気を出し始めたが
「今は、やめておこう。僕らはまだまだ下位ナンバーだ。コレだけのお膳立てをしてもらっていて、仕事を失敗ると上司に殺されてしまうよ?」
不承不承といった程で、互いに矛を納め、会話を続けていく。
「チッ、分かったよ。しかし疑うぜ。こんなゴミ溜めに、本当に[一桁保有者]が居るのかね?」
「さぁ?まだ目覚めてないという話だしね。それを調査するのも、僕達の仕事だ。まぁ居ないなら居ないで、此処を壊せとの命令だし、他のナンバーが来る前に点数を稼がせて貰うよ」
「まぁそれもそうだな。さっき犯った女は、なかなか旨かったしな。俺もそいつが出て来るまで、楽しませてもらうか。」
まだやるのか?まるで猿の様だなと、ボレは肩をすくめた。
その時。
「貴様らぁ!!見つけたぞっ!!!」
「アァ?何だぁ?」
もう十五には、成すべき事も残ってなく、生き残るという事すらその思考に一片も残らない。
無謀や不可能といった言葉は意味を成さなくり、ただ己の内から来る激情に燃やされるまま叫んでいた。
だがしかし、ふと目に映り込んだ憎い相手の側にある死体の山に、一瞬で心を冷やされる。
一番上にある一体の首のない遺体が、十五に見慣れた服装を見つけさせてしまったのだ。
「一匹潰し損なってるよ。カレアンカ。」
カレアンカは立ち上がりながら
「おかしいなぁ。加減を間違えたか?だが男なんざ殺ってもなぁ。ボレ、お前殺るか?」
「嫌だね!まだお茶が残ってる。それにキミのミスだろ?キミが潰しなよ。」
「チッ。しょうがねぇな。」
十五は間違いであってくれと、祈りながら、震える声で憎い相手に聞く。
「その上にあるのは?」
「あん?」
「その上にある女は、いつ見つけたっ!!」
「おお、これな。お前らを吹き飛ばした時に、泣きながらお前らの方に、走って行ったんでな。捕まえといた。中々美味かったぜ。」
「あっ」と絶望的な声を出しながら、十五は膝から崩れ落ちる。
カレアンカは愉快そうに眺め、更に続けた。
「とっ捕まえた時、なんか言ってたな?確か『十五ちゃん』だっけかな?犯ってる時も『十五ちゃん、助けて』とか、ぴーぴーうるせぇからよ。ホレっ!!」
そう言って、近くにあった物体を、十五に投げて寄越した。
十五の目の前に転がり落ちたモノ。
それは間違い無く、自分の事をいつも気に掛けてくれていた、女の首だった。
もう笑う事も出来なくなった、ヒナの虚な目を見た瞬間、ゲラゲラと声が聞こえた。
ゲラゲラと笑う声がする。
ゲラゲラと。ゲラゲラと。ゲラゲラ。ゲラゲラ。ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラと。
十五は嗤っていた。涙を流しながら、、、、、、、嗤っていた。
最後に残ったものを無くしたと、嗤っていた。
そして込み上げて来るものを、もう抑えるつもりは無いと、解き放った。
それに名前を付けるのなら、、、、、多分、、、そう、、、全てを塗り潰す怒りだろう。
日常は底には無く @amnesiac5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日常は底には無くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます