第4話 行間からは読み取れない心の声と心の眼

 この小説ではこれまでSNSがなかった時代、あの時、今の電子媒体によるコミュニティが有れば、どれほど埋没した純愛が誤解を生むことなく成就しただろうと考えて、書いて来ました。

 しかし、現代のSNSのデメリットとして指摘されている「見えない相手」に対する一方的な自己解釈による主観的主張、また、友達に対しても、面前で敢えて言わずに、電子媒体を利用して心の裏を暴露するといった「いじめ」、「嫌がらせ」、「暴言」等が横行していることは否めません。


 このことは、いろいろな小説アプリに関連付けて見ると、余りにも筆者の主観が半強制的な文脈に陥っている傾向が多々あり、それにより、筆者が読み手に求める多種多様な解釈を選択する機会を与えていないものが多いような気がします。


 小説の題名然り、第一義的に読み手の関心を惹きつけるため長文的なものがほとんどです。

 営利的な目的、題名で読み手にある一定の作品の意図を伝えインパクトを与え、中身に入る前に落とし所を予め推測させる。

 決して、それが悪いとは言っていませんが、余りにも文学が営利目的に傾倒し過ぎているように思えてなりません。


 そのことに対して、拡大解釈かもしれませんが、戦時中のドイツ然り、日本も然り、国民を扇動することを目的とし、マスメディアを利用したプロパガンダに近いような気がしてなりません。


 戦争時のプロパガンダ記事は、読者が読み終える前に「インパクト」の強い結論的な主題を与え、この記事は何を物語っているのか読み手にそれぞれの選択肢を与えようとしない事を目的としていました。


 過去の名作に題名の長いものはありません。


 筆者が、客観的要素を散りばめながら、その主観感を綴り、読み手がそれぞれ自身の境遇に即した客観的な解釈を行間から味合う機会を与え、筆者の意図・主観に対して、答えなき考察の世界に導かれ、そして、改めて、読み手はその作品に自身の主観を重ね合わせ、心の友とし、最もその主観が己に適した本が、「ライフバイブル」となるのです。


 ここで主張したいのは、「言葉」とは、脳から直接発するものではなく、脳で生成されたものが心で「ろ過」され、今言うべきこと、最も相手に伝えたいこと、それが真の「言葉」として現出するものだと。


 感情的な言葉というものがあります。悲鳴、激怒、絶望等、相手に解釈する意図間は必要とせず、ダイレクトに伝達するための声帯を与えられた生物としての本能的な言葉。


 それは書き手という小説家は使う必要はなく、実写的な事実を明確に伝えるノンフィクションやドキュメンタリーの際、重要となってくる表現に過ぎないのです。


 SNS、Facebook、Twitter、LINE、伝達手段としては非常に効率的で便利なものであることは間違いありません。

 伝えたいことがダイレクトに伝達できます。

 だが、ある使い方によっては、一方的な伝達手段、感情的な言葉を文字化しただけのコメント、自分の日記的なメモを公表するだけの手段といった使い方では、脳で生成した感情を心で「ろ過」するこなく表出しているのと同じである。


 今はそれら非人道的な乱用がされないようLINEなどでは送信取消機能などが装備されています。

 ただ、それも逆に言えば、送信コメントが相手に伝わらない間、心で「ろ過」していない言葉を自身のストレス解消、又は相手に対する誹謗中傷として、一歩踏み止まる事なく伝達してしまう機会を容易にしただけの装備と言っても過言ではないと思います。


 前置きが長くなりましたが、昭和50年代後半、本来、人間が神から与えられた「心」という目に見えない機能により愛を育んだ少年と少女の物語を紹介します。


 この章の主人公は、人の眼を見つめることができない定時制高校の「高木重美」


 それと、吃音のため言葉を発しなくなった同じく定時制高校の「工藤正明」である。


 重美は宮崎県高千穂の山奥で生まれ育った。父親は大工であったが酒癖が悪く、今で言うDV加害者であった。

 昭和50年代後期においてはDV「家庭内暴力」に関して、まだ、世間の目は厳しくない時代であった。

 重美は三人兄弟の長女であり、幼い頃から母親を助け、弟、妹の世話をしたり、家事を手伝っていたが、酒癖の悪い父親の格好の餌食となっていた。

 重美の成長は早熟であり小学校高学年になると非常に艶のある大人の女性へと成長を遂げた。

 背格好は普通であったが、その顔立ちは田舎娘とは思えないほど美しく、大きな黒い瞳が特徴的で昔で言うならばハリウッド女優のジョディ・フォスターにそっくりであり、地域一の美人と誉れ高かった。

 だが、酒癖の悪くアル中の父親は何故かその重美の大きな瞳を嫌い、重美が父親を見る度に、「親を睨むな!」と怒鳴り、重美に暴力を振るっていた。

 父親の重美に対する暴力は重美が成長するとともに酷くなり、父親は母親にも暴力を振るっていたため、重美が中学2年の時、重美の両親は離婚し、重美ら子供は母親と一緒に母親の実家のある宮崎市へ移り住むことになった。

 重美は中学2年の2学期から転校生として新しい中学校に通うことになったが、田舎者の転校生であり、重美は父親の虐待により人の目を見て話すことができなくなっており、いつも、下ばかり見ていた。そのため、友達もできず、なかなか学校に馴染むことができず、中学3年になった矢先から不登校になってしまった。

 そんな重美を心配していた母親は学校に相談し、学校側は元教員がボランティアで行なっている教育再生プログラム施設、今で言うカウセリング治療施設に行かせることとした。

 しかし、その当時、まだ、DVがトラウマになるといった精神科学の浸透が教育現場には行き届いておらず、その施設では戦前教育のような精神論を中心とした強制的な教育指導が行われていた。

 「目を見て話しなさい」、「目を見ないで話すから信用されない」と言った、まるで犬の躾のような指導のみが行われた。

 重美は兎に角友達が欲しかったので、そんな理不尽な教育指導にも耐え、半年間の指導期間を経て中学校に戻った。

 それが、また、重美に悲劇を与えることになった。

 益々、その美貌に磨きの掛かった重美は、女子よりも男子が周りを取り囲むようになった。

 重美にとっては同性異性は関係なく、兎に角、普通の人のように人の目を見て話し、顔を見合い、友達と笑いたかった、それだけの願いであった。

 重美の美貌は他校にまで知れ渡るようになった。もともと、山奥の田舎で育った重美には都会の危険性など知るはずもなく、ましてや、男友達が増えることに孤独からの解放による喜びを感じていた重美は悪い輩にも誘われれば付いて行くようになった。

 そんなある日、同級生の男子と街で遊んでいる時、その男子の先輩に当たる不良とかち会った。

 連れの男子はその不良に媚を振るように重美を紹介した、重美は紹介された返事として、その不良の眼を見て頷いた。

 黒い綺麗な麗しい瞳で見つめられた不良は重美に一目惚れしてしまった。もともと、早熟であった重美はその体付きも大人びていた。

 重美は不良にラブホテルに連れ込まれ犯されてしまった。そればかりか、不良のダチにまで紹介され、売女のように犯され続けた。

 心と身体に傷を持った重美は高校には行けず、家に引きこもる毎日を送ることになった。そして、また、人の目を見ることをやめたのである。


 もう1人の主人公、正明は、4歳頃から吃音をし出し、「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくが」、「おか、おか、おか、おかあさん」のように初めの音や言葉の一部を何回か繰り返す話し方である繰り返し(連発)の吃音が目立ち出した。


 正明は小学校に入学し、低学年の頃は吃音はあるものの、他の同級生と仲良く学校生活を送っていたが、中学年の頃から、友達から真似をされ、「裸の大将」と揶揄われていた。

 

 普通、吃音は成長とともに改善されていく例が多いところ、正明の吃音症状には、小学校高学年になっても、その改善がみられず、特に身体に力を入れて話そうとするなど、正明自身もその話しづらさに苦しんでいたことから、両親は、一旦、学校と相談して、普通学校ではなく、地域の児童発達支援センターに通わせていた。


 正明はそのお陰もあり、中学校は普通学級に入学したが、やはり、吃音者によくあるように、新学期、緊張のため吃音が酷くなり、また、直ぐにクラスメートから真似され、揶揄われ出した、そのため、正明が取った手段は、「喋らない」ということだった。

 だが、揶揄われることは少なくなったが、正明に近づく者は居なくなり、友達もできず、孤立無縁となった正明は夏休み明けの2学期に登校出来ず、そのまま不登校となってしまった。


 そういう二人は、16歳の時、定時制高校で同級生となった。席がたまたま隣同士であった。

 やはり、その時も、重美はいつも下を向き、正明は一言も喋ることはなかったので、定時制高校でも友達ができることはなかった。

 しかし、普通校と違い、定時制高校は、いろいろな問題を抱え、働きながら通っている生徒も多く、普通校ほどグループを形成して、誰かを除け者にするなどといったことは見られず、二人とも揶揄われることもなかった。


 そんなある日、正明はある事に気づいた。定時制高校は取り分け席が決まっておらず、早く来た者から好きな席を選んでいたが、いつも正明の席の隣に重美が座っているのだ。

 正明が遅れて来た時もあったが、次の授業になるとちゃっかり重美が正明の隣にいるのだ。


 今まで友達に揶揄われ、虐げられて来た正明にとっては、不思議な現象に思えた。


 2人とも無事、出席日数を満たし、高2に進級し、また、クラスも同じであり、やはり、いつも正明の隣には重美が座っていた。


 2人は、1年間ずっと隣同士であったが、話したこともなく、目が合った事もなかった。


 そんな2人は高2の2学期、修学旅行のバス旅行に参加して、大分県の湯布院町に向かっていた。


 まさに秋晴れの天気でバスの窓から見る景色も綺麗であった。

 高速道路は九州横断道路から大分自動車道に入った。

 それまで、窓側に正明が座っていたが重美がなんとなくバスに酔った感じに正明には思えた。


 玖珠パーキングエリアでトイレ休憩の後、正明は重美に窓側の席を譲ろうと、重美がバスに乗り込むまでバスの通路に立って待っていた。


 重美がバスに戻ってきた。重美は下を向いていたため、正明が通路に立っていることに気付かず、元の席に座ろうとした時、正明が重美に、「あ、あ、あのぉ~、ま、ま、窓側の席、ど、ど、ど、どうぞ。」とどもりながら席を譲った。


 重美は下を向いて何も言わず、正明の心配りに応じ窓側の席に座った。


 バスは全員乗車したことを確認して、パーキングエリアから本道に出た時であった。


 重美が正明の顔見て、

 

 「喋れるじゃん!」とにっこり笑いながら言った。


 正明も初めて見た重美の黒い綺麗な瞳に最高の笑顔を見せた。


 2人はそれまで、話すことも見つめ合うこともなかったが、この間、ちゃんと心は通じて合っていたのだ。


 心の声と心の眼で、しっかりと…

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